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ゴー! ゴーゴゴー!②

問題は色々と山積みなんだけど、俺も夏目さんを頼らずに頑張って行こうと思う。 面接用に履歴書を書きながら、一つだけ不安があるとしたらあの人のことぐらいだ。 姉ちゃんと別れたにしろ、俺の前から完全に消えたようには感じられなかった。 またいつ、どうやって接触してくるかも分からない。 一生接触してこなかったらいいのに。もう怖くない。あの人が弱っちいのは夏目さんのおかげでわかっていたから。 ただもう目の前に現れないなら、それで許してやろうと思えたのに。 そんな、不確かな願いは簡単に消え去った。 夏目さんと離れてから数日して、俺の携帯に無言電話が続くようになった。 相手は非通知。 非通知拒否にすると、今度は姉ちゃんの携帯に。 「やだ。気持ち悪いよね」 「……まあ」 「あ、今日バイトの面接だっけ?」 玄関で靴ひもを結んでいた俺に、姉ちゃんが携帯を放り投げながら駆け寄ってくる。 「そう。着ぐるみの方はその場で採用だったから、コンビニの面接してくるよ」 「そんなにバイトしなくても、弟ぐらい食わせてやれるんだぞ」 姉ちゃんはそう言いつつも、転職しようと色んな情報誌を読んでいるのを知っている。会社の御曹司との婚約破棄だ。居心地が悪いに決まっている。 大学費用は夏目さんに立て替えてもらっているので、姉ちゃんこそゆっくりしてほしかった。 皆頑張ってるんだ。 夏目さんだってきっとーー。 そう思うと胸が苦しくなった。 数日会わないだけで、落ちついてみると、生活水準とか違うし住む世界が初めから違っていたのは分かってきた。 それでも、――。 「大学生、ねえ。試験中は入れないよね? 夜勤は?」 「あ、よく牛乳とか買いに来る子だ。高校生かと思ってたら、へえ、大学生かあ」 「土日は着ぐるみのバイトするんだ。へえ、働きまくりだね。さては車の免許?」 「あ、ははは」 コンビニのバイトは、思ったよりも穏やかに終わった。 家族でしているコンビニらしく、高校生の男女双子の子たちが俺の研修をしてくれるらしい。 男性が少し怖いと言おうか迷ったけれど、この二人が同じ顔なせいで怖いと感じなかったこともあるので、店長にだけちょろっと言っておいた。 アットホームないいコンビニだった。 「ねえねえ、あの人ってどっかで見たことない?」 高槻 苺(たかつき いちご)ちゃんは双子の姉。高校一年生らしいが、姉ちゃんよりも発育がよくてたまに目の行き場に困る様な大胆なポーズをする。 「あ。……本当だ」 高槻 檸檬(たかつき れもん)くんは双子の弟で、無口でクールな男の子。恐怖は感じない。 二人が視線を向ける先を見ると――。 「……み、たらいさん」 俺と姉ちゃんが住むアパートを見上げる御手洗さんの姿があった。 二階を見上げている。家に俺がいるか確認しているのかもしれない。 いや、姉ちゃん? でも姉ちゃんは仕事中だし。 「あの、あの人、ストーカーなのでやっつけてきてもいいでしょうか!」 店長と双子にダメ元で、折角決まったバイトを一日で首になるのを覚悟で聞いた。 「いってこい」 「……気を付けて」 「箒、どうぞ」 トイレ用の箒とモップを両手に持って、何故か声援を受けながら飛び出した。 「な、何してんだ!」 「わ」 俺の顔を見て、固まる御手洗さんは、変装をしている様子はない。 「あの、何をしてるんですか? 無言電話も貴方ですよね」 心臓が破裂しそうなほど大きく鳴っている。 こんな情けない奴に俺は今、吐きそうなほど恐怖を感じている。 「答えろよ! この変態野郎!」

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