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ゴー! ゴーゴゴー!⑥
つまり、16時丁度にタイミングよく浚わなければいけないわけか。
「私はこのまま書類の手続きをすませておきますので、後はご自分のお力で」
「当たり前だ。16時までもう30分もないがな」
先ほど母が食べていたクッキーは15時のおやつだったのか。
なるほど、時間がないわけだ。
「そして、聖君にばれないようにお姉さんの転職先も此方から何社か紹介しておきましたので」
「余計なお世話だったかもしれないな。聖は自分であの御手洗に断りを入れたらしいじゃないか」
「嬉しそうですね。私の報告の後、彼の会社に圧力をかけたくせに」
呆れ顔の花渡と対照的に俺の顔は傲慢に笑う。
「ヤクザにも負けなかった会社だと、余計な箔が付いたおかげで良い圧力がかけられた」
「ゲスですね」
褒められたので口元を緩める。
「早く会いたいからな」
***
「はーい。風船はもう無くなっちゃったよ! 向こうにビンゴカードがあるからそっちへ行こうね」
聖と同い年ぐらいだろうか。風船を欲しがる子供達に必死で話かける女性は、ビンゴ会場へ子どもたちを促す。
ショッピングモールの中心当たりだろうか。
こんなに人が来ると思わなかったほど、会場はごった返している。
その中で、風船を貰えなかった子ども達から八つ当たりされているクマの着ぐるみを発見した。
女性が子ども達に注意しているが、全く聞き耳をもたない。
可哀相に、両手を左右から引っ張られ、右往左往している着ぐるみに後ろからも前からも容赦ないパンチが繰り広げられている。
「すまない。それ以上は止めてやってくれないか」
ひょいっと俺がその着ぐるみの前に立つと、子どもたちが一斉に俺の方を見る。
「ああん?」
「ジジイが、うっせーんだ……」
ジジイ……。
その言葉にショックを隠しきれなかった俺が眉を顰めると、子どもたちは俺の顔を見るなりダッシュで逃げて行った。
泣きだす子どもまでいたぐらいだ。
「……失礼なガキどもだ。な、聖」
着ぐるみを見ると、呆然と固まっていた。
「もう風船も完売したなら、今からお前の時間を貰っても良いか?」
たった二カ月ぶりなのに、俺だけが早く会いたかったのだろうか。
着ぐるみの聖からは反応が薄い。
「聖?」
「俺はこっちだよ! 夏目さん!」
訝しげに着ぐるみに手を伸ばそうとした瞬間、後ろから抱きしめられた。
俺のお腹の前で手をぎゅっと結んだのは、――会いたかった相手だ。
「お前が着ぐるみのバイトをしてると聞いたんだが」
「今日は熱かったから途中で交代したの。……俺だと思って助けてくれてたんだ」
後ろから抱き締められる手が、更に強くなる。
「……聖、嬉しいんだがここは人目がつくショッピングモールだぞ」
「契約で恋人のふりをしたくて抱きついてるんじゃないよ!」
「聖?」
「誰が見てても構わない。契約が切れたら、俺、素直になるって決めてたんだ」
震える声が、甘く奏でる。
強気な台詞なのに、正面から言ってこないのが聖らしい。
「言っとくが俺はゲイじゃねえよ」
「迷惑なら振りほどいて、振り返らなくて良い」
そんなわけあるか、馬鹿。
胸が燃えるように熱くなる。
たった数ヶ月だったのに、どうして俺はこいつをこれほどまで手放したくない、可愛いと思ってしまったんだろう。
「振りほどかないが、さらっていくぞ」
手を掴んで引っ張り、そのままひょいっと肩に担ぐ。
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