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ゴー! ゴーゴゴー!⑦

Side:氷田 聖 おかしいと思ったんだ。 吾妻が、『今日は俺が着ぐるみに入るからいつでもバイト終われるようにスタンバイしてて』と言いだしたから。 バイトなんてしたくないって言ってあのデートクラブで働いているくせに、どうして俺のバイトを代わってくれるんだろって。 でも、着ぐるみを庇ったヒーロー、基、夏目さんが登場して全て納得できた。 吾妻はきっと花渡さんと連絡でもしていたんだ。 そう気付いた時には既に俺は、夏目さんに抱きかかえられていた。 「うう。俺、荷物みたいじゃんか」 荷物のように肩に担がれた俺は、可哀相だ。 それに比べて、俺達を見る他の人たちは夏目さんには好意的な視線なのも悔しい。 恥ずかしくて肩に顔を埋めると、夏目さんがポンポンと俺の背中を叩いた。 「聖」 「……なんだよ」 「お前にすげえ会いたかった」 「俺もだよ?」 改まって何を言うのかと思ったけれど、続けて発せられた言葉に思わず息を飲む。 「さらって俺のマンションに閉じ込めたいぐらい、今は離す気がねえよ」 ど、どんな意味だよ。 「それって俺が危なっかしいから? 閉じ込めた方が怪我しないから?」 「怪我も傷も、お前の体や心を強くするためのレベルアップなら仕方ねえと思う部分はある。嫌だがな」 「……夏目さん?」 「契約なしで一緒に住んでみないか?」 ぐいぐいと夏目さんが言葉で俺に迫ってくる。 ……これ、夢じゃないだろうか。 夢、なのだろうか。 「……夢?」 つい本人にそう聞いてみた。 「夢か、俺にも確認させてくれ」 すとんと下ろされたのは、駐車場。 ゆっくりと顔を上げて夏目さんを見る。 すると、夏目さんの顔は、今にも泣き出しそうな、それでいて甘くとろけるような、俺の胸を焦がす顔をしていた。 「今から抱き締める」 「ぷっ」 いちいち言葉にする夏目さんに、緊張の中ちょっとだけ癒された。 「俺、夏目さんなら最初から怖くなかったじゃん。抱きしめてよ」 両手を広げて首を傾げる。 すると抱きしめられたまま、乱暴に車のドアを開け、そのまま押し倒された。 「煽るなよ、馬鹿」 「夏目さん?」 「怖がらせたくねえんだから」 「怖くないし!」 なんでそんな、何回も同じことばかり言うんだろう。 俺が怖がるわけないのに。 「俺、夏目さんと一緒に居て怖いと思ったことねえし、バイトで少しずつ色んな人と触れあって、御手洗さんも殴ったし、克服してきた! 俺の事を怖がりだと思わないでほしい!」 「そんなの分かってる。お前が俺と会わない間、努力しないわけねえからな」 「じゃあなんで、そんな事いんだ……よ」 ガッと乱暴に起き上がった夏目さんが、俺を見下ろす。 「俺が、――止められなくて怖いってこと、だ」 ふにっと唇をなぞられて、何か考える間もなく薄く唇を開かされた。 そしてそのまま、強引に唇を奪われた。 「――っ」 キスだ! 「ふっぁっ」 しかも、鼻で息をするのさえ難しいぐらい、唇を強引に押し付けられる激しいキス。 確かに、リミッターが外れた様な激しいキスだ。 「んん」 するっと入ってきた舌に思わず目を見開いた。

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