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ゴー! ゴーゴゴー!⑨
「あの……」
部屋の扉を開けて、夏目さんが俺も入るだろうとドアを押さえてくれている。
けれど、俺はその一歩を躊躇しながら夏目さんを見上げた。
「……キス以上のいちゃいちゃもすんの?」
期待しといて何もしないとか、緊張し過ぎて手を出せないとかならないように先に尋ねてみた。
俺だってもう大学三年だし。
怖くねえし。
ただ、夏目さんの覚悟を見たいと言うか、なんというか。
「する。部屋に入ったなら合意だと決めつけてする」
「お、おう」
「服の上から触って、舌を絡めたキスをして、蕩けた聖を今度は服を脱がせて――」
「わー! わー! 詳細待って! 頭パンクするから」
覚悟が無いみたいに思われたじゃねえか。
ドアを押さえてくれてる夏目さんの横を、目を合わすこともできずに通り抜ける。
すると、後ろでパタンとドアが閉まって鍵の音がして、息を飲む。
「こんなとき、玩具を作ってて良かったと思った」
「お、玩具?」
いきなりなんでその話を? しかも、貴方が作ってらっしゃるのは、大人のおもちゃですよね?
カチャンと鎖の音がして俺は反射的に振り返った。
夏目さんは、自分の手に鎖がついた手錠を片方だけに嵌めている。
「な、夏目さん?」
「ほら」
鍵を投げられて受け取ると、今度は抱きかかえられて寝室へと向かった。
「な、夏目さん!」
ボスンとベッドに下ろされた俺を、挑発するかのように笑う。
「泣きそうな声出してんじゃねえよ。まだ泣かせてねえだろうが」
ガチャンと、ベッドの枠に音がする。
見ると、夏目さんがベットに自分の片手につけた手錠の片方をくっつけていた。
「夏目さん?」
「手加減してやれねえかもしれないから、戒めだ。いいな、怖いと思えば逃げろ。絶対に無理すんなよ」
「へ、あの、ええ?」
「初夜をトラウマに染めたくねえから」
唇を舐めながら、ネクタイを緩める夏目さんを見上げて、息を飲む。
こ、これは片手だとしても、逃げれる様な雰囲気はないし。
逃げるつもりはない。
「片手じゃ俺の愛を受けとめるの、難しいんじゃねえか?」
「ふっ 俺の懐はでけえんだ。ここも、な」
はっ
だ、大丈夫だろうか、俺。
おれこそあの巨大なアレを受けとめられるのか。
ちょっとだけ、逃げ道を確認した俺の馬鹿。
フーッと深く息を吐いて、俺の上で落ちつこうとしている夏目さんは、確かにちょっと怖かった。
俺の知らない夏目さんだ。
でも逃げていいと言っている。
逃げられるように手錠まで持ちだしてる。
不安を和らげようとしてくれてるこの人は、俺の。
「……俺の恋人」
手を伸ばして、頬に触れた。
すると蕩ける様な優しい笑顔を向けてくれる。
「ああ。恋人、でいいか?」
俺に選ばせてくれてる。
俺に。
「うん。恋人、嬉しい」
夏目さんの首に抱きつくと、そのまま俺の上に倒れ込んできた。
想像以上に夏目さんは逞しく重い。
でもその温もりが嬉しい。
「……聖、怖くて良いんだ」
聖さんの吐息のように甘い声が俺の耳に囁く。
「怖くていい。怖くても受けとめてくれようとしたら嬉しい」
獣みたいにギラギラと獰猛な目で、今すぐ喉に噛みつきそうなのに。
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