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それは甘い、恋の痛み。⑥

大学を終えると、そのままコンビニのバイトへ向かう。 16時から一時間休憩を入れてからの22時まで。 俺の次のバイトがなかなか来なくて、24時まで勤務とかある。 弁当貰えるし金も稼げるから嫌じゃないんだけど、今日はちょっときついかも。 まだ腰がちょっと重い。 奥に何かまだ入ってる感覚が……する。 むずむずする。 ……今日は流石にもう、シないだろうけど、次はいつだろ。 明日? 身体が慣れてるうちにどんどん、こう、指とか感覚とか忘れないようにしたいんだけど。 俺から誘っても良いのかな? 「聖くん、ジュースが冷えないんだけど冷蔵庫見てもらえる?」 ぼーっと雑誌にビニールをかけていたら、倉庫からおばさんが顔を出す。 「あー、はい、修理だしたんですか?」 「今日は間に合わなくて」 「じゃあいつもの部分ですね」 冷蔵庫に向かい、接続が悪くなっている部分を弄り、ジュースの方の温度を見る。 「あっ」 ジュースの間から、コンビニの入り口を見ると――見たことのある高級車が止まった。 流れるように止まり、爽快に車から出てきたのは拓馬だった。 「ひ、ヤクザかしら」 けれど、爽快に車から降りたのは俺の恋で見た映像であって、おばさんとか知らない人にはやはり拓馬は怖い風貌なんだ。 それがおかしくて思わず笑ってしまった。 俺が居ないので、ちょっと辺りを見渡している感じが、か、可愛い。 レジの苺ちゃんがちょっとだけ怯えていたので、出ようかまだ見つめていようか迷う。 なんか、朝まで一緒に居たのに、なんだろう、胸の鼓動の早さがやばい。 俺のバイト先を見に来てくれる拓馬の行動に、すげえときめいてる俺がいた。 「何してんだ、お前は」 「あ」 缶コーヒーを取ろうとした拓馬がジュースの冷蔵庫を開けようとして目があって笑ってしまった。 「俺、今、倉庫の点検中だったんだ」 「そうか。休憩が一時間あると聞いていたが、まだか」 「嘘、聖くんの知り合い?」 苺ちゃんが驚いて目を丸くしていたので、倉庫から飛び出す。 『拓馬は俺の恋人なんだ』ッて危うく惚気てしまいそうになって、咳払いをする。 「下宿先のオーナーの夏目さんです。超お世話になってるんだ」 恋人って説明するには、高校生には刺激が早いかもしれないし仕方ないけど。 「いつも聖がお世話になっています。ちょっと気になってきただけなんで良かったら、これ」 微笑むと、ケーキ屋のケーキが入ってるみたいな白い大きな箱を貰った。 おおお、拓馬さんがケーキ? 受け取った俺は、その重みと美味しそうな匂いに首を傾げる。 「そこの割烹『しぐれ』の肉巻きおにぎり」 やっぱお肉か! でもてっきり、一時間の休憩でどこか二人で食事……かと思ってたので、差し入れだったのは寂しい。 22時までまた会えないのか。 「うわ、やばい! しぐれの肉巻きおにぎりとかめっちゃ並ぶ奴だ。写真とってインスタあげよっと!」 「こら、苺。すいません、ありがとうございます」 おばさんも出てきて拓馬にお礼を言うと、拓馬は首を振った。 「いいえ。こいつがちょっと男性恐怖症だった時期があったんで、接客心配でして……過保護で恥ずかしいですか宜しくお願いします」 深々と頭を下げた拓馬は、俺に微笑むと頭をぽんぽんと叩いて『迎えに行くから』とだけ言うと去って行った。 やばい。俺の彼氏、格好良すぎだ。 「そういや、聖君、男性恐怖症って言ってたね。嘘かと思ってたよ」

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