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それは甘い、恋の痛み。⑭

俺が知る、初めて会った日の、世間を知らない待ったれたガキが、いっちょ前に色んな事を考えて発言していくのを感慨深く聞いていた。 甘ったれで世間知らずで、しかも男に襲われてから男性恐怖症。 生きて行くのに難しいだろう、大変だろう、――放っておけない。 大学の学費も惜しむことなく差し出せた。 だから気にする必要はないが、聖の漠然とした未来の中では俺と対等になるべく、学費は必ず返すらしい。 お前は知らないだろうが、俺はそんないじらしいお前の直向きさが、この上なく愛しいんだよ。 甘ったれでも、バイトして男性恐怖症だった相手と対決して、そして克服に向かって頑張っている。 しかも怖いだろうに俺を奥まで受け入れようと自分から誘ってくる根性。 こんな奴、好きになるしかねえな。 生きてきた環境が違うし、年齢も違う。 愛情に対して貪欲さが足りないかもしれない。 が、こいつとなら価値観を擦り合わせていけると思った。 自分の根元になる正直な気持ちを伝えるのは、面倒で億劫で、勇気がいる。 それをぽつぽつと語ってくれるこいつが、愛しいと胸が甘く痛んだ。 この先も、ずっと。 俺はこいつを見るたびに、まるで初めて恋を知った少年のように恋に胸を漕がせて、甘く痛ませる。 それでもいいと抱きしめた。 「拓馬?」 「すっげえ愛してやるから覚悟しろよ」 俺に言葉に、一瞬で耳まで真っ赤にした聖にまた胸が甘く痛んだ。 「……朝が来ても離してやらねえ。逃がさないからな」 「ば、ばか。無理だし。仕事も大学もバイトもあるし」 そう言いつつも、俺だ抱きしめると背中に手を回してしがみついて、胸に顔を埋めた。 「……馬鹿野郎」 無理だと分かっていても、それを成し遂げたくて二人抱きしめあう。 それは、俺達が初めて知る、甘い恋の痛み。

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