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恋人生活⑦
「別に恋人なんだから普通に抱くし」
つまんねえこと言うなと、俺が肉を切って口に運ぶと顔を真っ赤にした。
免疫もないくせに、習ったばかりの台詞を言われてもなあ。それに飛びつく俺は、客観的に見ても気持ち悪いおっさんだろ。
びっくりはしたが。口が綻ぶが。
「じゃ、……じゃあ、拓馬の会社の道具、使う、とか?」
「なんで俺に聞くんだ」
肉を喉に詰まらせてしまいそうだ。
なんだ、こいつは。
酒飲ませてねえのに、何で酔ってみたいな発言してんだ。
「……俺、こんなに嬉しいから、拓馬が喜ぶことがしたい、なって。でも金で買えるものじゃ勝てねえし。それに拓馬は」
自分で作った玩具、俺に使いたいって思ったことあるのかなって。
ボソボソ言われて思わず苦笑した。
「安心しろ。考えたこともない」
「ないの!?」
「俺は自分の会社の商品には自信は持ってるが、別に」
最初に自分を抑制するために手錠を使って自分を拘束したのと、XLの避妊用具だけは感謝してるぐらいで、あとはない。
「今の俺らには、まだ必要ねえよ」
入れる入れないだけでいっぱいいっぱいのくせに、玩具でよがる余裕はねえだろ。
「お前はしてえのか?」
「そ、な、え、あの」
ナイフとフォークをブンブン振って焦る聖は可愛いが、あぶねえ。
「どれが試してみたかったんだ?」
「ば、ば、ばっかじゃねえの! 俺は別に! ……使い方分からねえのもあるし」
「ふーん」
ニヤニヤしていたら、野菜を俺の皿に放りこまれた。
どうやら人参が嫌いらしい。
そんな反応が見られるならば、何個か見繕ってみようか。
「で、就活はどうだ?」
「親父みたいな聞き方だね」
そういうお前は反抗期のガキみたいだとは言い返さずに笑っておく。
「20社ぐらい受けてみることにした。ッて言っても、ここら辺で俺がしたい会社って少ないからなあ」
「何がしてえんだ?」
「……色々!」
一瞬言葉を濁したが、てっきり工業系の大学だったし、俺の車に目を輝かせていたのでそっちの営業かと思っていたのだが、違うのか?
「車関係?」
「当たり! でも第二希望な」
単純だなあと、分かりやすい奴だなあと思ったが、それが聖の良いところだ。
「第一希望は?」
「うん。探したけどダメっぽい。最近興味持ちだしたから遅かったんだ」
仕方ねえよな、と言ったあと、ハッとするように俺を見た。
「でも、それは俺の努力が足りなかっただけで、お金でどうこうなるもんだいじゃねぇから! 余計な金を用意しようとするなよ」
……つまり、金がかかるから難しいと。
今さらになって気付いた第一希望ってことか。
「別に俺の金をどうしようが俺の勝手だ」
「横暴マン!」
「だが救いのヒーローかもしれないぜ」
ケタケタ笑ってやると、聖は目が線になるような穏やかな笑顔で俺を見た。
そんな落ちついて、安定した笑顔をみせてもらえるとは思えなかった。
いつのまにか塞がれたピアスの穴。
珈琲ぐらいなら美味しく淹れられるし、お皿だって割らない。
成長して行くもんなんだなっと感慨深い。
「俺、――拓馬には感謝してもし足りない。育った環境も、こんな風に生活水準も全然違うのに、拓馬って見下さないしヤサグレてねえし、芯を貫き通してて恰好良いし」
「んだよ。褒められると悪い社長はお小遣いやってしまいたくなるぞ」
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