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恋人生活⑧
「あはは、悪者ぶってる!」
「お前は、俺の会社を蔑むことはしねえのな。アダルトグッズだぞ?」
そう尋ねたら、頬を真っ赤に染めてあたふたと肉を切りだす。
「じゅ、じゅ、需要があるってことは皆使ってるんだろうし、経験ないけど。人気ってことは使いやすいだろうし、経験ないけど! だから凄いとは思うけど、そんな風には思えないよ! は、恥ずかしいから働くのは難しいし」
「そうか」
「拓馬の会社だから、一緒に働きたいって気持ちはあったんだけど、やっぱ甘えちゃうしなあ。恋人だからって入社してすぐに重役になっちゃうのも」
「しねえよ、バカか」
今度は聖がケタケタ笑う。
俺と違うことと言えば、耳まで真っ赤というぐらいだ。
「俺! 就職決まったらバイキング行きたい!」
「ああ、いいぜ、近くに中華の美味しいバイキングが――」
「違う! 超庶民的なとこ。全国チェーンみたいな。そんな場所と拓馬の似合わないかんじ見てみたい」
「――そんな事をいう恋人には、どんなお仕置きが待ってるか知らねえぞ」
クッと挑発しながら笑うと、免疫力の無い聖はフォークをポトリと落としたのだった。
Side:聖
幸せだと思う。
このままこの幸せの中に浸って、どろどろに溶けてしまうんじゃないかって錯覚してしまうほど幸せだと。
朝起きて、隣にいる幸せ。
昼間、携帯を見て連絡が来る、または存在をアピールするように連絡してしまう幸せ。
そして、夜、隣にいる幸せ。
「何、ぼーっとしてるの?」
「姉ちゃん」
「お待たせ、ごめんね。お昼が長引いちゃって」
働きながら資格を取ろうとして大忙しの姉ちゃんに、無理を言って来て貰った。
申し訳ないなあと思いつつも、久しぶりに会えて擽ったい。
「どうしたの? 就活?」
「う、まあそんな感じかな」
「何を悩んでるの?」
拓馬には言えなかったから、一瞬口ごもる。
が、意を決して姉ちゃんの顔を見て、気持ちを吐きだした。
「姉ちゃんに大学、入れて貰った時、車とかバイクとかかっこいいからディーラーとかに憧れててそっち目指そうと思ってたんだ」
でも拓馬のマンションに並ぶ高級車を見て、ひとつも分からなかった。毎回デートの行先によって車を選ぶ拓馬を見て、俺が整備するのもいいなって思った。勉強する意欲もわいてきたのは本当だ。
「ふんふん、いいじゃん。あんた甘え上手だから営業向いてるよ」
「でも、俺、ちょっと考えたんだけど」
「うん?」
「親が居なくなった時、姉ちゃんが苦労してくれたじゃん。そんな苦労する子どもを助けたいなって。そーゆうのって施設で働くとかになると、資格いるみたいなんだよね」
「そうそう。やっぱ世の中、学歴は会ったほうがいいよねえ。なりたい職業には大体資格が必要になっちゃうもんね。でも資格なしでも働けるところあるんじゃない?」
「そうなんだけど、だったら――」
色々と思ったことを話すうちに、姉ちゃんの顔がポカンとしだして来た。
「すごいね。あんたってそんな風に色々考えてたんだ」
「……なんだよ。俺が考えるようになったのは姉ちゃんが俺を育ててくれたおかげだろ」
「あはは。一応、ちょっとの間育ててくれた親も忘れないで」
「……でも多分、野垂れ死んでてもどんな顔していいか分からねえよ」
「確かに!」
あははと豪快に笑う姉ちゃんにも、親に対する負の感情はなさそうだった。
ただ、気分が悪いのでのたれ死ぬことなく生きていればいい。
俺達を捨ててまで行きたかったんだろうから。
「じゃあ、そっちに就職するんだ」
「まだ分からねえよ。難しいし。でも、資格とるために編入は金銭面を考えると嫌なんだよな」
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