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恋人生活⑩

*** 「で、聖は玩具使ってみようって気持ちは起きた?」 「は!?」 卒業証明書を事務に取りに行く時に、吾妻に言われて飛び上がりそうになった。 「俺、結構好きなんだよね。夏目さんの会社の玩具。フィット感がヤバいって言うか、手を抜かない感じが」 「そんな話、興味ねえよ!」 「でもさ、気持ちを確かめ合うえっちも大切だけと、快感を探すえっちも楽しいよ」 「聞こえない、聞こえない」 「ムラムラ来た時とか、いちいち愛してるって気持ちを盛りあげてからムラムラを解消させるのも違うじゃん。じゃあ最初から楽しむのもありだし」 「就職決まったからっって俺をからかうなよ!」 食堂の上にある事務に行き、学生証を提出しながら卒業証明書の発行を待つ。 吾妻は要領いいから、とっくに中堅の企業の商品開発部に就職が決まっていた。 さっそく俺にプレゼンしてこようとするから嫌になる。 「あ、玩具も洗ったり手入れ大変だから、使う時はゴムを玩具に」 「吾妻!」 前に言ったことと違う意見を言ったりするから、吾妻のやつっては掴めない。 「あ、暇発見」 そう言って、二階からさっさと下りてしまったし。 大体、なんで大学に頻繁に暇さんが来るんだよ。 一階に降りた吾妻が、俺に早く降りて来いとジェスチャーして来た。 「暇さん、名前の通り暇なんですか?」 渋々降りると、二人が俺に手を振ってくる。 他人のふりをしたいぐらい、華やかな二人だ。 「暇なわけねえじゃん。今からモブ攻めのAVだし。それより、男怖くなくなったんだって? 毎日兄貴に愛されてる御蔭かな」 「セクハラ発言止めてもらえます?」 「怒るなよー! 未だに兄貴が聖に会わせてくれないから、就職祝い渡せなくてさ。そろそろ就職だろ?」 「なっ」 まだ就職決まってねえのになんで就職祝い!? 「これさ、一番最初に兄貴が開発、企画、そして使用感を試したやつなんだけど」 「暇さんまで玩具かよ!」 就職決まってねえし、いらない。 っと突っ返す予定だったが、二人は押し付けると猛ダッシュで逃げて行きやがった。 なんだよ、あの二人、実は仲良しなのか? 一晩百万で、吾妻を指名した客じゃなかったのかよ。 ……吾妻は吾妻で、花渡さんや暇さんと知り合いみたいだし、どんな関係なんだろう? 俺、大学からの付き合いだしなあ。 ガサガサと、紙袋が音を立てる。 無理やり押しつけられた紙袋。 中を恐る恐る覗くと、水筒が入った箱みたいなのとボールペンみたいな包みがあった。 見た目からでは、怪しいおもちゃには見えない。 見えないけど、持ってたら落ちつかないので鞄の奥へ仕舞った。 「……」 そりゃあ、拓馬が喜ぶならば使ってみても良いんだけど、拓馬は仕事とプライベートは切り離してるのか、家にある玩具は使った形跡ないし。 でも、拓馬が使用したことあるって、やっぱ開発のために自分でも使ってみてるってこと? これで拓馬がイったりするのか? 重く心臓が跳ねると同時に、携帯にメッセージが届いた。 『すまん。今日は遅くなる』

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