100 / 115
恋人生活⑪
「お、おう。遅くなるのか。そうか、気にすんな」
何故か口に出してしまうほど動揺してしまったけれど、仕事なら仕方ない。
『無理すんなよ。夜ごはんは何か作るよ』
『それだけは止めろ』
「……」
最近、お茶や珈琲いれるぐらいできてるじゃん!
オニギリだって握れてるし、インスタントの味噌汁だって味がうっすくならない程度に注げるし。
そうだ。カレーだ。
カレーなら材料切って水入れて、ルー溶かすだけ。
姉ちゃんに嫁に行くなら覚えろって、引っ越す前に何度か見せてもらったし。
嫁じゃねえけど。
「うし!」
驚かせるためにも返信はせずに、携帯をぽけっとに入れると、俺はスーパーへと急いだのだった。
***
スーパーで材料を買い、皮をむき、野菜を切り、肉を切り、炒める。
簡単だ。めっちゃ簡単だ。
なのに、あちこちに剥いた皮は飛んでいくし、野菜は包丁からつるんと飛んでいくし、玉ねぎは涙出るし。
拓馬はこんな風にキッチン汚さずテキパキできてたような気がするな。
最初1000ml水いれるじゃん。
したらば、20分後煮たら水減ってるじゃん。
そこでルーっていれていいの?
ここで水が減った分追加して、1000mlに調整してからルー入れた方が良いの?
それとも減るのを見越して1000ミリリットルなの?
わからねえ。
が、味が薄かったら水とか牛乳とか足せばいいんだろ。
多分。
色々と試行錯誤しながら出来たカレー。
気付けば俺は汗びっしょりだった。
取りあえずシャワー浴びてから、台所掃除しよう。
そう思って服を脱ぎながら脱衣所に向かうと、足に紙袋が当たった。
ばさりと床に中身が放り出される。
ころころと転がったのは、水筒の箱の様な筒……。
拓馬が使ったと言われるアダルトなグッズだった。
拓馬の帰りは遅い。
俺も少しは興味が無いわけではない。
「……っ」
カレーの鍋の前で、一時間以上も熱せられていた俺の思考は、おかしくなっていたのだと思う。自分でわざわざそんな言い訳を頭に過らせてしまう。
その箱を拾うと、風呂場まで持って行った。
箱から取り出して、なんとなく説明書読んで……。
「まじかっ」
これを、ここに入れて上下に?
ちんこをこんな小さな穴に入れるの?
指をいれてみると、濡れてないせいかぎちぎちでいたい。
って、これ入るの? 痛そうしか感想が浮かばない。。
ローションでよく濡らして、と書いていたので寝室のローションを取りに行く。
……これで拓馬が気持ち良くなったってことは、良い商品ってことなんだよね?
やっぱ一人前になるには、こんなアダルトグッズの使い方ぐらい熟知しとかないとだし。
恋人の商品なら尚更。
色々言い訳を考えて、納得させてから風呂場へ向かう。
内心はすっげえドキドキしていて、どんな感覚なのか、拓馬に内緒でこんなことして良いのかと、気が気じゃなかった。
ローションのキャップを開けて、いざ尋常に勝負!
が、玄関で鍵が回る音がした。
「……?」
ローションのキャップの音にしては、やや遠くから聞こえてきた。
「すまん、遅くなった」
「ひい!」
その声は、まさしく俺の恋人拓馬の声。
「会議が長引いちまった」
ともだちにシェアしよう!