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恋人生活⑫
どんどん拓馬の声と、足音が近づいてくる。
どうしよう。
俺、手にローションと道具持ってるんですけど!
「聖?」
「わー!」
慌てて風呂の中に投げ捨ててから、脱衣所から顔を出した。
「風呂入ろうとしててびっくりしたじゃん。てか、帰るの全然遅くねえし」
「……可愛らしくおかえりも言えんのか」
不満そうな拓馬とはよそに、俺はすげえドキドキしていた。
浮気とかするつもりは今後一切ないが、なんか浮気したみたいな罪悪感が押し寄せてくる。
「ご飯、作ってるから。シャワー浴びるから待ってて、一緒に食べよう」
「お前が作ったのか」
「何、その顔」
拓馬は喜んでいいのか悪いのか複雑そうな顔を浮かべている。
露骨すぎるだろ。食べてから驚いても知らないからな。
「てな訳で、さっさと着替えて来い。俺もシャワー浴びるから」
体よく脱衣所から押し出して、安堵の息を吐いた。
はあ。良かった。いや、タイミング悪過ぎなのか。
全部脱いで、お風呂に入ろうとして固まった。
なんか、湯船に熱冷めしシートみたいなぷよぷよしたのが浮かんでいる。
これってさっき俺が投げたアダルトグッズだ。
しかも、ローションの蓋が開いてたのか中身が垂れて湯船に入ってる。
「うひいい」
これは最早使う、使わないの前に、どう捨てよう?
掴んでも掴んでもぬるっと手から滑るローションやその玩具に苦戦していると、ノックもなしに風呂場のドアが開いた。
「おい、聖。あんなに台所散らかして、怪我はなかったのか」
「あ……」
終わった。
俺の中で、冷静にその言葉が出た。
終わってしまった。
俺の中で、小さなプライドやら自尊心やらその他もろもろが失われた。
玩具とローションを両手で、鰻すくいのように掴んでいる、全裸の俺。
それを見下ろす拓馬。
ふわふわと湯船の熱気が辺りを舞う中、俺の人生は終わりを告げた。
「……終わったら燃えないゴミだ」
「ち、ちがーう! 違う! 違うから行くな! そんな無言で大人の対応やめろー!」
慌てて立ち上がって拓馬の服の裾を掴む。
「おい!」
「うわーん」
ぬるっとした滑りに足を取られ、すってーんと転んだ先は湯船の中だった。
「ご、ごめん」
「あぶねーだろうが! 怪我はねえのか!?」
一緒に裾を掴まれ滑りそうになった拓馬は、俺を助けようとしてくれたらしい。間に合わなかったけれど、片足だけ湯船に入ってしまい、俺のお腹の間に腕を回してくれていた。
「怪我はないけど、こ、心の問題が」
「……行かないでって、見ててほしいのか?」
そう言われて、頭が熱くなる。
かあああっと真っ赤になるのが分かった。
「ちがっ その、これ、拓馬が実際に使ったことあるって聞いたから試してみたくて」
ごにょごにょごにょと言い訳を始めると、大きく溜息を吐かれた。
「言い訳は、あとで聞く。が、俺も一緒に入るぞ」
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