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エピローグ③
「聖―! 就職おめでとう!」
エレベーターが開いて真っ先に飛びついて来たのは吾妻だった。
「おう! ありがとー」
吾妻に抱きつかれてよろめきながら、ちらりとエレベーターの中を見た。
花渡さんが真っ赤なバラの花束、暇さんが業務用の箱に入ったゴムを持ってこっちを見ている。
両極端な二人で、思わず笑ってしまった。
「就職おめでとうございます。てっきりうちのラブ☆センチュリー会社に来ると思ってたんですが」
「だよなあ、社長室で秘書といけない勤務時間☆とかAVじゃ鉄板じゃん」
暇さんのゴムは躊躇したけど、押し切られる形で貰ってしまった。
でも薔薇も、吾妻みたいな美形じゃないから似合わないんじゃないかな。
「ちょっと離れてくれますか?」
「んだよ。いつぞや押し倒したことまだ根に持ってるのー?」
暇さんを、ゴミをみるような目で花渡さんが睨むのを吾妻がゲラゲラ笑っている。
「花渡、肉を焼くのにスーツで来るとは何事か」
珍しく拓馬が怒っていたが、花渡さんは淡々と拓馬を見るだけで表情は変えない。
「いえ、自分は食べる専門ですので。焼くなら社長と暇さんが宜しいかと」
「俺らも食べる専門」
吾妻が俺の手を持って、ブンブンと手を振った。
拓馬は大きく嘆息したが、それでいいのか何も反論はしなかった。
肉奉行だ。拓馬は焼き加減にもこだわる肉奉行に違いない。
屋上に上がり、専用のカードキーで施設内に入ると、バーベキュー用の準備が出来ていたし、業務用の大きな冷蔵庫が壁に置かれ、隣にはワインセラー、そして窓辺に大きなソファが二つ置かれている。
「そこのソファは折りたたみベッドにもなるらしいぞ」
腕まくりしてしながら拓馬が言うので、俺と吾妻はきゃっきゃっとはしゃぎながらベッドに戻して、寝転がってみた。
吾妻の髪が、寝そべってソファに落ちるのがちょっとだけ艶めかしくて息を飲んだ。
「……吾妻って、やっぱゲイなんだよな?」
「えー? まあどっちもイケると思うけど聖は抱けないかなー。チュウはできるけど」
「なっ」
「何の話をしてるんですか」
「何何? まーぜーてー」
暇さんが隣のソファもベッドに戻すと、寝ころびながら立っていた花渡さんの腰に抱きつく。
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