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エピローグ④
「触らないでください」
ぺいっと引き剥がされた暇さんが不服そうに花渡さんを見ているが、花渡さんはどこ吹く風。
この二人も仲がいいのか悪いのか、不思議な雰囲気だ。
「ってか誰も拓馬の手伝いしないのかよ」
一人張り切る拓馬が不憫で立ちあがろうとしたが、吾妻に腕を掴まれてストンと座らされた。
「大丈夫だって。あの人って肉奉行だろ」
「なんだよ、肉奉行って。肉が好きなだけだ」
ちょっと俺も思ってたけど。
でも流石に5キロの肉を一人で焼くのは大変だろう。
「じゃあ任せておけばいいじゃん。ほら、花渡が行くだろ」
「分かりました」
スーツのジャケットを脱ぎ、ソファに放ると拓馬の所へ向かう。
それを見ながら、にやにやと吾妻が俺に囁く。
「なあ、社長って上手い?」
「ぶっ」
「でけえんだからその分、テクでカバーしてるんだろ? だから聖も嫌じゃないんだろ?」
「下品だなあ。俺たちは愛情で繋がってんの」
俺が照れながらそう伝えると、今度は暇さんが吹きだした。
「いやいや、兄貴本番しなくても触りっこだけで満足っぽいし。上手いんだと思うよ」
「もー! 恋人同士のそーゆうデリケートな話を聞いてくるなよ!」
慌てて二人から逃げようとするが、二人は酔ってもないのに酔っ払いみたいな絡み方で俺の両肩をがっちりホールドしやがった。
「……聖って、絶対可愛い声出すと思う」
「吾妻、男が苦手だった俺に親切だったお前はどこいった」
「好奇心が勝った」
だめだ。
好奇心旺盛な思春期の少年みたいに、わくわくした顔で俺を見てる。
「なあ、聖」
「何。何も答えないよ?」
「いや、せっかくソファが二個並んでるんだから、お互いさあ、見せあいっこしようぜ」
「はあ!?」
余りにも素っ頓狂な吾妻の提案に、思わず悲鳴に近い声を上げてしまったが、急いで吾妻の隣から逃げる。
「えー、いいじゃん。他のカップルがどんな感じが見てみたい」
「か、か、カップルって、え、吾妻は暇さんと恋人なの?」
吾妻と暇さんの顔を交互に見るが、二人は顔を見合わせた後ぶはっと吹きだした。
「違うよ。俺たちはデートクラブのバイトと客だし」
「花渡とは客じゃないんだけどねえ」
二人がニヤニヤする理由が分からず首を傾げる。
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