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エピローグ⑤
ポカンとする俺を尻目に、暇さんが立ちあがった。
「兄貴、肉焼くの待った」
「ああ?」
そこらへんのヤクザよりも怖い顔で、不機嫌そうに肉から顔を上げた拓馬は不服そうだ。
だが、肉を前にして待ちきれない子供のようにわくわくしているのか機嫌はわるくなさそう。
「俺達三人でソファでイチャイチャすっから、兄貴達も隣のソファでしてよ」
「は? 死ね」
一網打尽とはこのことか。
確かに暇さんの発言は、一般的なモラルとか欠如してる気がする。
けれど。
その瞬間、俺の中である式が浮かんでしまった。
俺<肉
いや、拓馬の肉好きは知ってる。
墨を温めている今、俺よりも拓馬の頭の中にはシャトーブリアンのことしかない。
「誰が恋人の色っぽい姿を他人に見せるか。AV男優やデートクラブの№1と一緒の思考だと思うなよ。散れ」
そう言いつつ、ヒレ肉を常温に戻そうと冷蔵庫から取り出してきて、目を輝かせている。
……拓馬の言ってることは常識的で間違えてないんだけどさあ、でも肉に嫉妬しちゃう俺もあれだけださあ。
「撤回していただきましょうか」
スッと立ち上がったのは、ずっと沈黙を守り、暇さんと吾妻をゴミのように見ていた花渡さんだった。
「なんだ?」
「うちの二人は、常識はないですが、――すごいんですよ」
「すご!? へ、すごい? え?」
花渡さんが挑発するように、拓馬の周りを一周回った。
その視線や、値踏みするような表情。
そして、口元を妖しく滲ませて笑う唇。
びっくりした。
ストイックな人かと思ってたのに。
「あのなあ、花渡」
「暇さん、吾妻さん、聖くんを剥いちゃいましょう」
「え、俺!?」
「りょーかい!」
「らじゃ」
拓馬の言葉を遮り、花渡さんが実力行使に出た瞬間だった。
まるで水戸黄門の印籠を取り出させるように、ふたりを顎で使う花渡さん。
呆然としていたら、俺のジーンズからベルトがカチャカチャと外された。
「さあ、社長。私達四人で盛り上がってもいいですよ。その間、社長は一人肉を焼いていてください」
「……そんな拓馬見たくない」
思わず吹きだしそうになった俺を、拓馬が睨みつける。
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