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ニ、百万円です。②
「会って確かめて来て。ただ本家のご当主さまには悪くない話だし。彼はとても紳士よ」
「面倒じゃないなら会うよ、いつ?」
「一階で貴方を待ってるわ」
「早速今日かよ」
どんな内容かも分からないけれど、お金をいっぱい持ってるお得意様で紳士でイケメンとか。
そんな上手い話し、あるわけねーじゃん。
どうせ、イケメンっていたってギッラギラした性欲の塊みたいな男でしょ?
一階に降りて、そいつを探そうと思ったらエレベーターを開けた瞬間、ばっと人影が飛び出して来た。
「じゃじゃじゃじゃーん! 超待ってたんだけど!」
「え、うわ」
黒のパーカーで、フードをかぶったままの男が、にこにこと笑いながら俺に紙袋を差し出して来た。
確かに長身で、ちょっと垂れ目だけど目元が色っぽいイケメン。ハーフなのかな。目が緑だ。
綺麗なエメラルドグリーンの海みたい。
ただし、雰囲気がすげえ遊んでそうな、軽いノリ。
「受け取って。プレゼント」
「あざっす」
受け取った紙袋の中身を覗くと、大人の玩具がいっぱいだった。
「……これ、今から使うの?」
「え、無理無理。仕事で男抱いた後にまた男抱くとか! えっと吾妻ちゃんネコ?」
「みゃーって。ネコじゃないよ」
猫の真似してポーズすると「可愛い」って拍手してくれた。
「でも、そっか。知識もない系か」
なんだか一気に脱力したのか、暇さんはにかっと笑う。
「今日はそんな依頼じゃないから。ムラムラっとしてるならこの道具で抜いておいでよ。俺、まっとくし」
「いえ。……暇さんがそんな気分じゃないならいいです。楽だし」
話が若干噛みあわなかったが問題ない。
そのまま暇さんとクラブを出て、青いスポーツカーに乗り込む。
「吾妻ちゃんさあ、デートクラブのホームページに顔写真載せてなかったじゃん」
「え。お店のホームページとかあるの?」
「ぎゃはは。そのレベル! 本当、素人なんだ。てっきり載せないからブッサイクなのか、――VIP用のすっごい子なのか期待したのに」
「で、どっちだと思います?」
助手席に乗り込むと、強引に顎を掴まれて右や左に引っ張られる。
「うーん。超綺麗だけど、VIPの欲望を咥えたりしごいたりはしたこと無さそう!」
パッと手を話すと、自分の下品な発言にゲラゲラ笑っていた。
「暇さんだって、黙ってれば硬派でイケメンなのに台無しですね」
「あー。敬語止めて。俺に敬語は要らないよ。それに俺、女に嫌われる性格目指してるから、今の超褒め言葉」
嬉しそうにハンドルをきるその姿は、なんだかちょっとだけわくわくしている子どもみたいだった。
その間、お互いくだらない話をしながら軽くドライブを楽しんだ。
お客とは言え、暇はトークも上手だし踏みこんでこないギリギリラインも熟知してるし、気を置く必要のない相手だった。
「おー、着いた」
「ここ?」
空はすっかり夜に染まり、薄暗い山道を登って着いた先は、四階建ての小さなホテルだった。
「うん。ここで俺と一晩、一緒に眠ってほしいんだ。エッチなしで」
慣れた手つきで車を止め、甲斐甲斐しく助手席の扉を開けながら、暇は俺の顔を覗きこむ。
「100万で、どう?」
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