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ニ、百万円です。③
「はあ?」
セックスもエロイこともしないで、一晩百万?
驚いた俺に、暇が人差し指をゆらす。
「これは別に、吾妻へのお礼とか報酬とか、妥当な賃金ってわけじゃないんだ」
なんだそりゃ。ますます意味がわからない。
「この値段は、俺が初めてゲイ男優として貰った給料なんだけど、――捨てたくて」
暇は俺に手を差し出す。
「なんもしないで百万貰うのが申し訳ないなって思うなら、この汚い身体で抱きしめさせてよ」
「……別にいいし。それに、別に汚くないし」
俺は暇の手を取り、車から降りた。
暇は、俺の返事が面白かったのかクスクスと笑っている。
どうやら俺の返事をお気に召したようだ。
「あ、別に俺が寝静まったあとなら、あの玩具使っても良いよ。ただ、一晩は絶対俺のモノになって」
「まあ、そういった依頼なら構わないよ。一晩中えっち、っとか言われたら100万じゃ安いかもだし」
「うっわ。流石、貴族の末裔様っ 超ウける!」
下品に笑いつつ案内されたのは古館を改装した、静かで上品なホテル。
入ってすぐに大きな階段があり、踊り場には色とりどりの花が描かれた絵画が飾られている。
少し薄暗い館内に、踊り場の窓から映える満月。
まるで夜の海を泳ぐ花畑のようで、異質な空間だった。
「俺、此処の部屋が落ちつくんだよね」
通された部屋は、高級なホテルのスイートルームには及ばないが、古臭さはあるもののアンティークのベッドや装飾に、雰囲気は悪くなかった。
部屋中の壁に、いろんな海の絵画が飾られている。
暇は海が好きなのだろうか。
海の絵に憧れや安息を抱く人の深層心理ってどうなんだろう。
クラゲが泳ぐ海外の下に、鳥かごの様なベッドが置かれていた。
柵が深くて、しかもベッドも丸い半円型。
けれど暇はそのベッドにダイブしてごろんと天井を見上げた。
「やべえ。この部屋から出たくない」
「……お金持ってるんだから、自分の部屋もそんな感じにしたらいいじゃん」
「えーだって、そんなことしたらって、待った!」
俺も隣に行こうとしたら、片手が飛んできた。
「一緒になるんだから、脱いで」
「脱ぐの?」
「うん。全部脱いで」
まじかよ。
まあ100万もらうんだから裸ぐらいいいけど。
「ムラムラしてこないの?」
「うーん。この部屋でえっちはしたくないなあ。神域だから」
「あっそ。ならいいけど」
ぱさりと足元に落ちて行く服を、まとめてソファへ置く。
すると暇はクスクスと笑った。
「……何?」
「いや、躾けが行き届いてるなあって。ほら、服を脱ぎ散らかさない感じが」
「そう?」
「で、畳まないで無造作にソファに投げる感じが、見た目と違って大雑把。きっと親が畳んでくれるんだろうなあ」
暇の言葉は悪気がないのはかんじられるんだけど、皮肉っていうのかな?
言葉の端々に、俺が恵まれた環境で自分の環境を下げている気がする。
そんな部分が、花渡に似ていると思った。
「よく分からないけど、アンタのこの聖域で、アンタとえっちしたら面白そう」
「吾妻は、壊したくない大切なものもないのか。いいね。生きやすそう。来てよ」
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