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ニ、百万円です。④

にっこにこの上機嫌な暇は、俺を手招きする。 筋肉の付き方や、身長、おまけに男らしい顔つき。 ひょろくって毛も薄くって、身長だってそんなに高くないし、中性的だって言われる俺。 あまりに違いすぎてちょっと悔しい。 隣に並びたくない身体だなあと思いつつ、隣に沈むとすぐさま手が伸びてきた。 「……やっぱ人の体温って良いよね。最高」 「そう?」 「とくに、腰に抱きつくのが好き。骨ばった感じが拒絶されてそうなのに、身体は拒絶しても絶対離れないようにと本人の意思が感じられてさ」 わけがわからない暇の持論。 ふわふわと、この部屋の中に漂っては、掴んであげられないまま消えていく。 そのうち、うとうとと頭を揺らし始めた。 本当に、お障りもえっちもせず一緒に眠るだけのつもりなんだ。 別に100万円分の見返りが欲しいだけじゃなく、無駄使いしたい子ども。 はたまた、消えてほしい金額なのか。 ぷくぷくと、泡の音が聞こえてくる。 そんなはずないのに、壁中に飾られた絵画の中の泳ぐ魚達のひっそりと吐きだす泡の音。 それぐらいひっそりと暇の寝息が聞こえてくる。 やんわりとした温かさと、ちょっと鼻にツンとくる量の、バニラっぽい甘めの香水。 それを感じているから、死んでないとは分かるんだけど、なんだか落ち着かない。 やっぱ少しはエロい事してくれたらいいのに。 会員制のデートクラブで、尚且つ金持ちしかいないせいか、皆クソ真面目。 沢山金払って、高級レストランで食事だけとか、俺の欲しいものを買いたいだけ買うショッピングとか。腕組むか手を繋ぐだけ。 一応、本番以外の手でしごくとかぐらいなら社長は見ないふりしてくれるらしいのに。 全く刺激が足りねえよ。 こんなぬるま湯じゃあ、壁の魚達も息ができずに死んでいくだろ。 「……」 腰に絡みついて眠る暇を見下ろしながら、刺激が欲しくなった。 試しに手を伸ばすが、全然届かなくて触れない。 「……何?」 目を擦りながら暇が俺を見上げる。 「……硬くなってねえか、触らせろよ」 「なってないって」 くくくっと笑うとまた眠ろうとするので、手を振り払い同じ目線まで俺が下がった。 「抱き締めてさせてくれるだけでいいんだってば」 「裸で? そこまでするなら俺のを触るか、触らせろ!」 「うーん。仕事なら立つし放つし、舐めるし入れるけど、吾妻とのこの関係は仕事じゃないから無理」 「俺の方は仕事だ」 「でも、吾妻みたいな処女には俺は汚いと思うよ」 けろっと暇は言いのけたのち、面倒くさそうにため息を吐いた。 「せっかく性欲と無関係の相手を金で雇ったのに、えっちしようは契約違反だよ。俺に癒しの時間をくれ」 「癒しねえ」 暇はずりずりとまた下がって、俺の腰に抱きついた。 「えっちやらせっくすやら汚いよ。汚くて、面倒だし。皆、パイプカットすればこの世は平和になると思う」 「止めろよ。下半身がひゅんってなった」 「任せろ、俺が大統領になった暁には、全世界の男のパイプカットを……」 言い終わらない内に、寝息に変わる。 暇は、日本に大統領がいないことは知ってるのか疑問だ。

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