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ニ、百万円です。⑤
総理大臣だ、馬鹿野郎。
なんか鼻に付く男だ。
自分で自分の価値を下げようと上手く動く。
自分を馬鹿みたいに演じているがバレバレ。
こんなやつと何もしないで寝て100万。
月一回とはいえ、半年ぐらいデートしたら大学費用ぐらいは軽く自分で出せる。
だけどそんな大金、親にばれたら根掘り葉掘り聞かれちゃうし。
ほどほどの金額を上手く稼がないと面倒になる。
俺の腹も頭の中も真っ黒黒。
逆に、金の前では潔いこの暇の方が、きっと綺麗なんだと思う。
俺からは表情が見れないけど、きっと気持ちよさそうに眠っているに違いない。
気付けば、俺も眠っていて、起きた時には暇は部屋ではなくバルコニーに出て煙草を吸っていた。
携帯を取り出すと、もう6時前。
空が白に染まり、夜を払いのけようとしている。
その絵画みたいな空の真ん中で、独特な匂いのする煙草を咥えて、暇が立っていた。
「もう起きたの?」
パンツだけ穿いて、バルコニーに近づくと、暇は振り返らず片手を上げた。
「テーブルに百万置いてるよ」
数センチある封筒をテーブルの上に発見して、なんだか朝日と部屋の雰囲気に合わなくて、そこだけ別世界に感じられた。
「ちゃんと数えて」
「いや、いいよ。面倒だし。それにあんたが間違えるはずないだろう」
消したい金額を、間違えるはずない。
「……やべえ。吾妻っていいわ」
くだけた口調なのに。
何故かバルコニーからは、近づくなオーラが感じられて、仕方なくソファに座って百万を持ってみた。
案外重たい、けどなんかニセ札みたい。
「ねー、吾妻」
「何?」
「また会ってくれる?」
振り返らない暇の声は、感情もない淡々とした声だ。
その声からは、暇の気持ちは何一つ感じられなかった。
「別にいいけど、ちょっと金額減らさねえ?」
こーゆう金って税金とかどうなるか分からないし。
「やだ。そこは譲れねえな」
「うーん。金額が高いと面倒だから断ろうかな」
本当に面倒だけれど、残念なことにそれを全て処理してくれそうな相手を俺は知っていた。
というか、浮かんでしまった。
ご当主さまの俺の為なら、税金やら金の管理やらもしてくれそう。
「やだ。俺、吾妻がいい。吾妻じゃなきゃ、眠れねえわ」
「じゃあ金は要らないからたまに一緒に眠ってやるよ」
「だめ。金を払わなきゃ意味がない」
「じゃあせめて、こっちを見てお願いしたら?」
いつまで経っても振り返らない暇に痺れを切らしそうけしかける。
すると、気付かなかったが煙草の先端が数センチぐらいの灰になっていた。
灰皿はちょっと後ろに振り返ったテーブルの上。
つまり俺に顔を見せたくなくて灰さえ落とせずにいたわけか。
「向いたら、お願い聞いてくれるの?」
「うーん。まあたぶんね」
100万の大金でえっちなし。
割り切れれば、引き受けた方が賢明なんだろう。
だから、暇は振り返った。
そして、俺は自分で挑発しながらもそれを後悔する。
暇は、今にも泣き出しそうな、崩れてしまいそうなくしゃくしゃの笑顔だった。
子どもが、必死で我儘を言わないように飲み込んでいるような痛々しい笑顔。
何故か、見た俺の方が痛みを感じるほどの。
「その顔は、反則でしょ。いいよ」
答えは、その瞬間に決まってしまった。
覆らなかった。
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