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ニ、百万円です。⑦
違うね。
花渡はきっと、俺に自分の生き方を馬鹿にされたと怒ってる。
「嘘だよ。やってないし。百万貰ったのは本当だけど、やってないよ」
「何を」
「ってか、離してくれる?」
挑発して嘲笑うと、花渡は手を離した。
掴まれた形のままTシャツに形が残っていて、不様だ。
「裸で抱き締めて眠っただけ。証拠見る? ほら、情事の後なんて何も残ってないだろ?」
「やめてください」
視線を逸らされたが、構わずに上を脱ぐ。
畳の上に落すと、昼間だと言うのに長い影が落ちて、ここだけ日陰が濃く夜のように思えた。
「下も脱いで、自分で広げてみようか? 腫れてもないし中に残留してるものもないよ。――残念だったね」
「吾妻さん」
「本番行為なんてしないで済むし、あんたもじいちゃんに買われるより、あのデートクラブに居たままの方が、綺麗な身体で居られたんじゃないの?」
「……吾妻さんの誤解は、この先ずっと迷惑なのではっきり言いますけど」
そう言ったあと、少し視線を泳がし黙った。
「何?」
「――壁にもたれてもらいます?」
何を思ったのか、花渡の目が光ったかと思えばその後の行動は早かった。
壁に押し付けられた俺に、膝たちで近づくとベルトを引っ張り下着を下ろした。
そして反応していなかった俺のモノを、突然咥えだしたのだ。
「は? 何してーーっ」
「式部に聞かれるので、静かにして頂けませんか?」
口の中を舌で濡らし、喉の奥まで押し込むと機械のように前後に動かす。
卑猥な水音がじゅく、じゅっと聞こえてくるのに、なかなか俺は芯を持たない。
……というか。
全く気持ち良くない?
反応しない俺に気付き、口から取り出すと、涎が糸を引き畳にしみ込んでいく。
先走りではなく、花渡の潤滑剤代わりの唾液だ。
――ただ、俺を見上げながら舌で下から上へ舐める瞬間だけ、背筋に甘い電流が走った。
けれど、行為自体ははっきり言えばぎこちなく、単刀直入に言えば下手だった。
「経験ねえの? あんた今、何歳だっけ」
「その歳で童貞かって聞きたいんですか? 女性との経験はあるんですよ」
「でも全然気持ち良くねえし、アンタの顔見ながら自分でやった方がまだマシな感じだし」
「ああ、こうですか?」
着物の合わせを左右に大きく開くと、白い骨ばった胸元が見えた。
妖艶。
その言葉が似合っている。
これで経験ないとか信じられない。
そのしっとりと汗ばんだ胸に手を入れて、――感じるまで触って喘がしてみたい。
「っと、式部がそろそろ昼食作り終えそうですね」
「まじか。中途半端だけど、ティッシュない?」
はあっとため息を吐いたら、フッと鼻で笑われた。
「私は、口でしたことがないってだけで、手で処理はしたことありますよ」
「は?」
「辛そうでしたから、セクシャルな意味ではない処理を。でもまあ貴方は発情してるみたいなので、こちらもそれ相応の対応で」
「反応?」
下手すぎて感じなかったはずなのに、俺の熱芯がいつの間にか少しだけ顔を持ち上げていた。
まじか。花渡の胸元を見ただけで、半立ちとか、超だせえじゃん。
今度は右手で握られ、親指で先をぐりぐりと刺激された。
「……若いですね。もうぬるぬるです」
「うわ」
「そんなに、今日の相手に抱かれなくて溜まってたんですか?」
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