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三、本番はしないけど。①

社長に呼び出されたのは、花渡に口で慰められた次の日。 俺にバイトをどうするか聞いてきたので、続けるよって伝えた。 てっきり喜んでくれるかと思ったのに、社長は納得いかないと唇を尖らせていた。 「ねえ、本当にいいのぉ?」 社長が綺麗にネイルされた指で顎を触りながら、首を傾げて聞いてくる。 「いいよ。本番はしないから」 「でも花渡くん、とても怒ってたわよ。ただでさえこのデートクラブなんて引き取られてから寄りつかなかったのに電話なんてして、貴方を働かせたこととても怒ってたのよ」 「でも、俺と花渡ならどっちが偉いの?」 俺が笑うと、嘆息しつつ両手を上げて首を振られた。 「写真は加工なしね。ちょっとぼかすけどいいわね?」 「うん。で、今日のお客は?」 社長にiPadを渡され、待合室とネット予約一覧を見せられた。 残念ながら俺指名はいない。いつも社長が吟味して、その中から俺が選ぶ形だから。 「オラオラ系より、初々しい感じの子から始めてみたいんだけど」 「それなら貴方と同い年の子で、とある議員の息子さんなら」 別に若いからって初々しいとか限らないんだけど。 「なんか、議員さんが、うちの息子がゲイで気持ちが悪いが此方が決めた相手と婚約するのを条件にここの会員にさせたって。その議員さんったら私を見たら虫みたいに気持ち悪そうな顔で言うのよ? 掘ってやろうかと思ったわ」 「……あっそ」 「世の中、色々なのよ。恵まれた家、お金だけ恵まれた家、貧しい家、心も貧しい家、その中でやっぱり貴方は恵まれている方よね」 「社長はどうなの?」 「……ふふ」 曖昧に笑って誤魔化すと、iPadを奪った。 「今夜七時。指定されたホテルは二つ向こうの駅前のホテル。……まあ、スイートですって」 「同い年ぐらいのくせに、スイートかよ。親の金かな」 「因みに、彼は抱かれたいみたいよ。本番は禁止だけど、貴方攻めれるの?」 「攻める……。女みたいに扱えばいいってこと?」 いまいちピンと来なくて首を傾げたが、社長は面倒くさそうに一瞬だけ無言になった後、うちのデートクラブのノウハウを教えてくれた。 なるほど。客の希望プレイなんてものがあるのか。 今までデートしてなんか買ってもらって、みたいな恋人気分を味わうだけの簡単なバイトしかしてこなかったから、性的なサービスのギリギリのラインは分かってなかった。 「できる?」 「ん。やってみるけど、嫌でも顔に出さないから大丈夫」 「貴方が顔にださなくても、下半身の反応でばれちゃうのよ」

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