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三、本番はしないけど。②

下半身の反応って言葉に、爆笑した。 床を転がる勢いで爆笑した。 「それ、会員様の前で絶対にしないでね」  社長はあきれた様子だったが、俺にその客を任せてくれるらしい。  男を抱けるかなんて言われてもわからねえ。本番はないんだから、花渡みたいに舐めるぐらい?  あいつは俺のちんこ舐めても反応してなかったようだし、俺だって反応してないのを相手に気づかせないぐらい相手だけ気持ちよくさせて誤魔化せばいいんじゃないの。 だけど、いざホテルに到着して、そいつの顔を見た瞬間納得。 俺の下半身が全く反応しない。 例えるならば、花渡とか暇みたいな、色気とか雄臭い感じがしない。 毛も生えて無さそうな、良く言えば純粋。はっきり言えば童貞くさい。 野菜畑から引っこ抜いたばかりの、土だらけのじゃがいもみたいだ。 「う、うわあ……。す、すごく綺麗な人だ。本当にあのデートクラブで働いてるの?」 芋っぽい、童貞くんは、似合わない某高級ホテルのスイートルームに、七五三かって感じのブランドのスーツ。 似合いもしない磨かれた靴に、口ごもったり俺の顔見て真っ赤になったり。 害はないんだけど、なんていうのか……性欲が全く沸かないんだけど。 「気軽にあっくんって呼んでいいよ。そっちはなんて呼べばいい?」 ホテルに到着したと、社長に報告の電話をしながら首を傾げると顔をさらに真っ赤にした。 「え、えっと、その、こ、恋人みたいにルイくんって」 お前、それ本名じゃねーか。なにを、金の相手に本名言ってんだよ。 「じゃあルイくん。早速だけど、脱いでいい?」 「え、や、――や、違うよ。俺、そんなサービスお願いして、な、ないし」 「そう?」 童貞君は大袈裟に両手を振った後、ソファの上で体操座りなんてして俺を上目遣いで見る。 俺が、征服欲とかあればこんなよわっちい男を押し倒してやれたんだけど。 「じゃあどうしたいの?」 「……たまに恋人ごっこしてほしい。俺、大学卒業したら結婚するんだ」 それはある程度聞いていたけれど、俺はわざと驚いたふりをする。 「このデートクラブの会員ってことは、ゲイじゃないの? なんで結婚?」 「……」 「ああ、ごめん。個人情報を聞きだすのは駄目だった。珈琲でも入れようか。お酒にする?」 隣に座った俺に、身体を大きく揺らして反応するお客様は、ちょっとだけ可愛かった。 小動物見たい。 「昔、父に恨みを持つ人から誘拐された時、ちょっとだけ悪戯されたんだ。だから性的なことはちょっと怖い」 「ふうん」 「でも絶対見つからない様な森の中の廃墟にいたのに、父が見つけてくれて。――ああ、多分俺はこれからもどこに居ても逃げられないんだろうなって」 ……そこは、親に見つけてもらって嬉しいって話じゃないのか? なんで逃げられないって思うんだろう。

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