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三、本番はしないけど。③

「安心できるの?」 「安心できるよ。好きな映画見る感覚なんじゃない? 外れがないし、恋愛みたいに苦い経験も最初の段階もないし、数時間恋人と過ごす感じがさ。地位も名誉もプライドも捨てられない人にとっては安心できるんだよ」 「……暇がなんかもっともらしいこと言ってる」 「質問しといてなんだ、こら。脱がすぞ」 ゲーム機をもったまま、ベッドの上をコロコロしてきたのでびっくりした。 行動が、子どもっぽいんだよ。 顔とか身体は文句なしなのに。 「……俺ってレイプ願望でもあんのかな。このバイト、全然満たされない」 「あははは。吾妻は自分を汚したかったんでしょ? 汚れてみたい理由は、……誰かを知りたかったとか」 「……」 「分かるよ。俺がゲイ男優になった理由とちょっと似てる。でも自分を追い込んでもさ、その相手が心配してくれてもさ、それって満たされないんだよねえ」 はあ、と意味深にため息を吐かれた。 でも、暇の言っていることは分からないようで、なんとなく分かるから悔しい。 「吾妻は、満たされてないわけか。性欲が」 「ば、馬鹿じゃねえの!」 「あ。待ってレアキャラ来た」 不意にゲーム画面に集中されてしまい、宙ぶらりんなまま放置された。 悔しいので暇の背中に乗って、全く面白くなさそうなゲーム画面を見る。 「……なあ、客だろ。えっちしようぜ。満たしてよ」 「えっちとかより、こっちのレアキャラだよ! これゲットしたら旅が楽になるよー」 「――そんなに俺って魅力ねえの?」 ルイ君には俺の色気は効くみたいなんだけど、暇とか――あいつには全く効かないのだろうか。 「魅力はあるよ。でも俺も御金貰わないとちんこ起たないし」 オフでは性欲ねえのかよ。 満たされてないって言った癖に、満たしてはくれないわけか。 「もういい。なんか玩具買って試してみる」 「ローター? バイブ?」 「今から見てみるの!」 「俺があげた玩具は使ってくれたの?」 「あーあれどこ行ったんだろ。じいちゃん宅に置いてきたのかも」 ローションやゴムが入った販売機の前で、安物のピンクローターを発見した。 それとグロテスクなバイブならば、どっちがいいか悩む。 「お前なあ、俺の兄貴の会社の玩具だぞ。じいさんが使ったら心臓停止するぞ」 「じいちゃんは死んでる。内縁の妻みたいな綺麗な男が住んでんの。使ってくれたらいいな」 「……それはいいな。鼻血出るわ」 うっせえ。性欲ねえくせに。 「そいつも、性欲なさそうなつまんねえ無機質みたいな顔してんだよね。じいちゃんに抱かれたことなかったのかな」 「内縁の妻なのに?」 ゲラゲラと暇が笑いだすので、耳を引っ張ってやった。 「なあ、バイブ買ったら突っ込んでいい?」 「だから、なんで俺だよ。吾妻が自分に突っ込んでよ。俺、見とくから」

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