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三、本番はしないけど。④
バイブの入っている自販機を開けながら、不意にどうでもよくなってやめた。
そのままベットに飛び込んで、ふて寝すると暇がツンツンと背中を叩いてきた。
「おーい、一回開けたら料金払わないといけないんだぞ」
「ゲイ男優の癖に常識ぶるなよ。もういいや、寝る」
「100万円分仕事しろよ。レベル上げ!」
暇が耳元でぎゃんぎゃん喚くけど、気分じゃないので頭から布団を被った。
馬鹿みたいだ。
俺が今、暇とラブホに居ても、きっと花渡は顔色一つ変えないし。
朝、ラブホから出て駅で落ち合えば、100マンを無表情で受け取ってそのまま消えるだけ。
俺と花渡は、お金でも主従関係でもない。
ただ俺がクソガキだから仕方なく面倒を見てやってるって感じのお情けなんだ。
そう気付いたら、背伸びしている自分が馬鹿みたいで可哀相に見えた。
「吾妻君?」
「……暇は人を好きになったことってある?」
「ないってば。俺はこの先誰も好きにならないし欲情しないし、できればパイプカットとかもしてみたいし。なんで生きてるか分からんレベルで生きたい」
「……暇の人生も馬鹿みたいだね」
「んだとー!」
「暇を好きになった人が、きっと苦しいだけじゃないか」
人懐こいし顔は良いし、男優だからえっち上手いだろうし金持ってる。
だからきっと好きになってしまった人は、可哀相に。
俺みたいに報われなくて傷ついちゃうんだ。
「……今日の吾妻は傷心モードなんだね。なんなら付き合っちゃおっか?」
布団の上からぺちぺちと腰辺りを叩かれて、ちょっとだけ期待する。
ゲイ男優のテクニック?
「暇がバイブ突っ込んで喘いでみてよ」
「だーかーらー、需要ないってば。俺、後ろ処女だよ」
布団の上から跨がれて、耳元で処女とか言われても嬉しくない。
「手か口で処理してあげよっかって言ってるの。俺、超優しいでしょ? 本当ならお金取るよ」
背中を指先でなぞられたけれど、俺は暇を処理の道具にしたいわけじゃない。
そんなの、イった後に虚しくなるだけの行為だ。
「暇を性処理に使いたくない。大事な金づるだし」
「優しい……のか? んんん?」
首を傾げる暇を、布団から少し顔をのぞかせて睨む。
「暇みたいに、男っぽい身体で、地位もあってえっちにも自信がある奴を、プライドがへし折るように苛めてみたいんだよ」
「うわあ、吾妻って、歪んでる! それはちょっと俺にはどうもしてあげらんねえよ」
「別に御金貰ってる相手にどうしてもらってもしょうがねえよ。もういいから、来てよ」
布団から右手を差し出すと、暇はクスクスと笑いつつもゲーム機をベッドの端に投げ捨ててくれた。
「吾妻って甘え上手だよね」
「しらねえ。仕事の為の演技かもよ」
するりと布団の中に入ってきた暇は、やはり俺の下に潜って腰を抱き締めた。
顔は見られたくないのは相変わらず。
こんなに打ち解けたふりをしても、こいつの方が結局は演技なわけだ。
「吾妻は、今恋をしてる?」
笑いが消えた声からは、探るというよりも不思議そうな、ぽつりと落ちてくる様子だった。
恋と言う気持ちをしらないくせに、いや、知らないからこそ聞いてきた。
「さあ。今じゃねえ。ずっと。――恋と言うよりもはやこれは」
執着だ。
何も知らないあの男を、自分の目の前で素っ裸にして、……全て暴いて自分のモノにしてしまいたい。
身も、心も。
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