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四、脅迫したいな。①

Side:青桐 暇 燃え上がる感情は、凶器。 凶器は人も、人の気持ちも壊す。 だから俺はいつも低温。低燃費。うそ、燃費超悪い。 本気になって狂気にならないように。 栄養はいらない。水だけで、ぎりぎり生きてる感じ。 そんな今が、超好き。 *** 「吾妻ちゃん、駅まででいいの?」 「じゃあ暇の家まで」 一緒に眠った朝、不満そうな、欲求不満そうな吾妻ちゃんは大人しく助手席で丸まっている。 懐かないネコみたいな、不安定な美少年。 不安定で壊れてしまいそうなのに、生意気で芯が強い矛盾が、すげえ楽しい子。 綺麗で、抱き締めたら肌が吸いつく。 離れられない。 まるで離さないと、若さを吸い取られてる気分だ。 「嘘。駅で召使いが待ってるから駅で良いよ」 「召使い?」 「ん。バイト代を管理してくれてる俺の家の弁護士」 ぽろっと零すプライベートは、吾妻が金持ちだと教えてくれる。 金持ちの子は、失うものばかりの癖に危険が大好きなようだ。 「へえ」 「すごく、綺麗だよ。うちのデートクラブ出身で、処女」 「あはは! 嘘だあ。綺麗な子は吾妻ちゃんみたいに自分の売り方知ってるはずだってば」 「だって、処女だし」 脹れっ面の吾妻ちゃんを見て、笑うのを堪えてサングラスで顔を隠した。 だって経験が少ないのか、嘘も下手くそなんだよね。 生意気なのに、そこが可愛い。 「暇、そこ、そこでいい。下ろして」 「あ、召使いさん?」 「そう。ねえ、暇ならあれ抱ける?」 指差した方向に、黒のベンツが停まっていた。 その運転席で本を読んでいる男。 こいつが吾妻ちゃんの……。 って。 「あれ、花渡さんじゃん」 「は? 知り合い?」 「だって兄貴の会社の顧問弁護士だし」 「はあ!?」 「あー、綺麗な男だとは思ったけど、あの人もホモ? わ、俺の周りホモ多いな」 兄貴と親父は女好きだから、俺の回りがってことだけど。 そうか。いきなり兄貴の会社で働きだしたあの人、元は吾妻ちゃんの家で働いてたのか。 「……ちょっとからかってみてよ」 「俺が? 俺と居る時点で動揺してたら吾妻ちゃんがからかいなよ」 運よく隣の駐車場に車を止めると、気付いたのか本を閉じて此方を見た。 切れ長の瞳が、すっと見開いたかと思えば一瞬だった。 少し苛立った様子で目を閉じため息を吐いている。 なんだろ。その焦燥した感じも無駄に色気振りまいてるよね。 「なんで貴方達が一緒に居るんですか」 「客でーす」 「バイトでーす」 お互いを指差して紹介し合って爆笑してると、本を持っていた手が瞬時に俺達の頭を叩いた。

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