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四、脅迫したいな。②

「いってえ、兄貴に言ってクビにしてやる」 「クビにしちゃえ、クビにしちゃえ」 「……何からいえばいいのやら」 花渡は、綺麗な顔を本当に迷惑そうに歪ませて、大げさにため息を吐いた。 「100万の相手って暇さんだったんですね」 花渡の声が鋭くなったかと思うと、その声は俺ではなく吾妻に向けられた。 確かに無愛想でちょっとミステリアスな感じの人だけど、ここまで徹底的に冷たい雰囲気でもないのに。 吾妻の前では人形みたいに顔を取り繕ってるのかな。 「まあね。ほら、金」 紙袋を渡すと、花渡は両手でしっかりと受け取り頭を下げた。 「お預かりします」 ……変な関係。 主従関係とか言ってたけど、なんだろ。 この空気じゃ、吾妻の恋心が傷つくだけで花が咲く前に散っていくのが感じられた。 「吾妻、運転免許取っちゃえよ。そしたらこれ、やるよ」 「あー? ああ、それもいいな」 「ってことで鍵あげるね」 吾妻の手に俺の車のキーを渡すと、そのまま花渡の車の助手席に乗り込んだ。 「暇?」 「暇さん?」 「色々お互いばれちゃったから、話し合いしましょ。大人の話し合い」 そこで花渡が嫌そうな顔をするのは分かる。 けど、どうしてついでに吾妻も嫌そうな顔をするんだろう。 俺が恋愛しない主義って知ってるから嫉妬でもないよね? ……嫉妬なのかな。 こんな綺麗な若者を、恋の虜にしちゃう花渡に興味が更に沸いた。 「それでは、お送りいたします。吾妻さんは?」 「いい。家の前にベンツで帰れるわけねえだろ。しかもゲイ男優とじいちゃんの愛人と」 苛々と髪を掻きあげると、車を一回だけ蹴って駅の方へ消えて行った。 吾妻はどうして普通の恵まれた家に生まれて、あんなに面倒くさい性格になったんだろう。 それともこの美しい男に狂わされた被害者なのかな。 その姿を目で追う花渡は、一体どんなことを考えているのやら。 「で、暇さんはどちらに送りましょうか? ご自宅? 社長の家? 会長の家?」 「うーん。兄貴の家が一番近いかな。そっちで」 「畏まりました」 運転席に座った花渡から、清潔そうな柔軟剤の香りがした。 背伸びした吾妻から香る香水と対照的で、――なのに艶めかしくて思わず息を飲んでしまう。 冷静で無頓着。 感情の無い機械人間。 クソ真面目の童貞野郎? 見た目からの印象はそんな感じなのに、花渡の本性は全部真逆なのかもしれない。 無反応なふりをして、俺の安い挑発に簡単に乗ってきた。 「……色々話したいから、兄貴の部屋でお茶でもどうぞ」 「分かりました」 即答。 俺に警戒してないのか、社長の家だからか油断してるのか。 それでも俺は、この男にちょっとだけ興味を持っていた。 「吾妻さんがいつもお世話になっています」 紅茶を渡すと、先制パンチだと言わんばかりに、冷静に言われた。 嫌がる素振りが見たくて、ソファの隣に座って覗きこむようにその目を見た。 「超不機嫌だね。吾妻はあんたの紫の上?」 「いいえ。先代のお世話になったお孫さんってだけです。ただ私にはあの家を守る義務と御恩があるので」 「ふうん。やんごとなき身分の吾妻を、心配してるってわけじゃなく――家の為」

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