28 / 132

四、脅迫したいな。⑥

俺の質問に、暇はぎゅっと腰に巻き付いた手の力を強めることで答えた。 「……まじ?」 「下半身にズンってきた。性欲を持てる相手は始めてかも」 「惚れてる……は違う?」 「違う。恋人みたいにちゅっちゅ、いちゃいちゃしたいんじゃない」 暇の声が、ピンと張りつめたピアノ線みたいな、芯がある冷たい響きを放った。 「征服、したいんだ」 何と歪んだ。 歪んだ恋愛観だ。 こいつはまともな恋愛も、この考え方のせいできっと恋人もできないだろう。 俺をお金で一晩、自分のモノにしたいのと同じ気持ちだ。 手に入らない相手を、お金や権力で支配したい。 歪んだ表現。 「花渡は、よく分かんねえ奴だよ。うちのじいさんが身寄りのないあいつと妹を引き取ったんだけど、養子にもしねえし。親族の集まりには呼ばないし。大きな御殿に花渡とじいさんと式部ちゃんが三人。――じいさんが離婚したのは……御稚児趣味があるからとか、同性の恋人と別れさせられてばあさんと結婚したとか。じいさんに親戚が寄りつかない理由に、花渡の存在もあったんだ」 俺だって財産分与の話し合いの時に久しぶりに会っただけ。 まあ、伏し目がちの花渡は、背筋をまっすぐに一度も正座を崩さないその美しい姿勢に俺は見惚れていたと思う。 「じゃあ、立場は吾妻の方が上なんだね」 「まあな。俺はご当主様扱いだ」 誰も欲しがらなかったから押しつけられただけだ。 誰も欲しくはないが、あの辺り一帯にとっては心のよりどころ的な場所だし。 「ふうん。だったら襲うチャンスあるし、『ご当主さまの言うことを聞け』って自分から足を開かせる口実もできたな!」 「……暇」 こいつにとっては征服できるかできないか。 それが根本にあって駄目じゃねえか。 「お前ってちょっと歪んでるな。手が届かない相手の気持ちはいらないけど、身体は欲しいって」 「その言い方は複雑だけど、まあたぶん間違ってない。俺、歪んでるのかも」 途端に、何でも持ってそうで身軽なこいつが哀れに思えた。 哀れで……放っておけない子どもみたい。 「しょうがねえな。えっちしてやろうか?」 「あはは。吾妻とはしたくない」 「っ!?」 バッサリと切られてしまった俺の立場は一体どうなるんだよ。 なんでこんなに一晩尽くしてやってるのに、俺じゃなくてたった数時間関わった花渡なんだろう。 *** 暇の糞野郎に壊されたプライドは、ルイくんに癒してもらうことにした。 「なあ、ルイ君。抱いても良い?」 「ほえ!?」 「じゃあ抱く? 抱いちゃう? やっちゃう?」 「ま、待って、待ってよ。今日は一緒にホラー観賞会しようねって言ったじゃないか」 暇の発言から数日。 連絡先も交換したのに、連絡ないし。 連絡ないのは良いけど、暇が俺を利用して花渡を懐柔しようとしてる感じがむかつく。 俺を道具みたいに。 一晩百万の燃費の悪い道具かもしれないけど。 「……分からない。ルイ君なら優しいから流されてくれるか持って思っちゃったのかも。悪い」 しゅんと項垂れて、ルイ君の肩に頭を押しつける。 すると、ルイ君の心臓がバックバクいっているのが聞こえた。 ドキドキしてるけど、俺とえっちはしたくないってどんな思考回路なんだろう。 「えっと、吾妻くん、好きな人ができたの?」 「いやあ歪んでるやつが、何故か俺とえっちしたがらないからムカついてるだけ」 「ふうん? でも携帯何回も見たりして、……あんま俺の話にも上の空みたいだったし。ちょっと寂しかったから気になってたよ」 「うそ、ごめん。違うんだよ」

ともだちにシェアしよう!