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四、脅迫したいな。⑫

 花渡の考えていることが全く分からねえ。  というか、俺は普段花渡が何をしているのか分からない。知らない。  俺が大学に行っている間、こいつは仕事をしているのか。  休みの日は、その雨もりする古臭い部屋で何をしているのか。  何が好きで何が嫌いか。俺は何も知らない。  知らない癖に、その声や顔に惹かれていたんだ。 「一つ、言っておきます」 門に到着した花渡は、門を開ける為に雨の中車から出た。 うちの古臭い大きな門は自動では開かないので、真ん中から左右に割らないといけない。 雨に打たれる花渡の背中を、睨みつける。 「今日、式部は家に帰ってきませんので二人きりです」 打ちつける雨が、更に激しく車に響く。 まるで霰のように、車を壊しかねない。 今頃、花渡の部屋は小さな海になっているかもしれない。 その海に、今から俺は溺れに行く。 溢れかえった想いが、海の中に沈んでいくんだ。 こんなにも花渡に執着して、全く綺麗ではないが……今、現実をぶつけられた。 俺は今、綺麗だけではないごちゃまぜの感情の中、花渡に焦がれている。 どうしようもなく。 今から肌を重ねないと暇に取られると分かっているのに、この焦がす思いが苦しかった。 ぴちょん、とてん、とてん、ぴちょん。 変わった音が部屋の中の響く。 腐敗した板から零れ落ちる滴が、下に用意されている皿にとてんとてんと落ちている。 濁った汚い水が少し溜まった皿が、部屋の隅に置かれている。 「ね。修理しても良いでしょうか」 「だから修理はしていいってば。お金足りないなら、俺のバイト代好きにして良いから、この屋敷の天井全部貼りかえちゃいなよ」 意識してる素振りもなく、面倒くさそうに伝えると縁側を見た。 まるく、満月みたいにぽっかりと開いた窓から縁側が見える。 其方には激しい雨が斜めにザアザアと窓を打ちつけていた。 激しく乱れ、音を立て唸る。 この弱々しく落ちる雨音よりも、外の激しい雨の方が俺の気持ちをよくあらわしている。 大きくて古臭くて、二人の兄妹ではとてつもなく広い屋敷。 そこに今、雨の格子に閉ざされて、二人きり。 あんなバイトをしていても、所詮はガキだ。 花渡といざ二人になってしまえば、無茶苦茶意識してしまうガキだ。 「お風呂、入りますよね?」 「……はあ!?」 「お風呂、入りますでしょ。お掃除してきますよ」 なんでラブホみたいに、部屋に入って最初のすることが風呂? 「ああ、ご当主様ですから一緒に入って隅々まで洗ってあげましょうか」 綺麗に、作られた彫刻のように笑われて、俺の警戒はMAXだ。 綺麗に、それは綺麗に笑って腹で何を考えてるのか分からないけど、――切れてる? なんか、張り詰めたピアノ線みたい。 簡単に切れないけれど、切れたら思い切り弾けて周りを壊してしまいそうだ。 「どうぞ、良いように布団を敷いて待ってて下さい」 「敷かねーよ!」 慌てて声が裏返って、超ダセえ。 つまり、えっちしていいんだろ。 えっちしていい環境を作ってくれたんだろ。 じゃあ俺も腹をくくってしちゃえばいいんだ。 えっちをさっさとしてしまえばいいんだ。 なのに天変地異みたいだ。いや、アイツが天って言いたいわけじゃないけど。 少なくても、この前会った時はガード硬い気取ったインテリ野郎だったよな。 口でちょっとしたけど、俺に抱かせる気はなかったような? なんでたった数日でこんな、俺をわざわざ呼び出して、ヤる状況作ってるんだ? 俺の考えた最強の夢物語、と言いたいほどに都合の良い展開だ。 『もーしもーし』

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