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四、脅迫したいな。⑮

『――思い出しましたか?』 『し、らねって、ばっ ぁぁっ』 息を殺すような、泣きだしそうな、甘い声。 耳ざわりで吐き気がこみ上げてくるのは、――演技じゃないからかも。 世界一セックスが嫌いな男が、まさか快楽以外を求めてゲイ男優をしてたなんて皆、知らないだろうし。 「おい、気を付けろよ。車内でゲロんなよ」 「それ、俺の心配なの、車なの?」 エレベーター内で兄貴に笑うが、兄貴はヤクザより怖い顔を更に怖く重々しく俺を睨みつけている。弟ながらちょっと怖い。 「そういえば、式部ちゃんって今日休み?」 花渡が家に居るってことは、あいつは休みだったのかな? 「ああ、確か今日が命日だったらしくて半休取って墓参りだったかな」 「うわ!」 つまり、今日は吾妻のじいちゃんの命日ってことか。 それを吾妻は知らないってことか。 『はぁっ それ、ゃだっ』 機械のモーター音が聞こえてきて、吾妻が玩具で苛められてるのが分かる。 玩具ならまだセーフかな。 兄貴に貰った住所を頭に叩き込みながら車に乗る。 こっから30分はかかるけど、雨だし色々と最悪だった。 『い、いやぁっ』 悲痛な吾妻の声が、いつもの人生を舐め切ってる吾妻とは違って痛々しくて可哀相だった。 『て、暇、い、と、まっ た、……けて、いとまぁっ』 しゃくりあげる吾妻の声に、気付くとアクセル全開で飛び出していた。 警察さんだけには見つかりませんようにと祈り、全力で向かった。 「花渡! 混ざるから! 俺混ざるからまだすんなよー!!」 嘘なら簡単に口から吐き出せる。 だけど、実際に二人の致している様子を見て、吐いたり倒れたりしそうで、超怖い。 情けないけど、手が震えていた。 それでも、昔昔、俺の母親だった女性が無理やり俺を妊娠させられた状況に似ていて、後悔したく無かった。 後悔しては駄目だって思った。 あの人は守れなかったけど。壊れて、夢の中で少女のように笑っているけど。 現実の、俺を見ることはないんだ。 だから。 一晩100万の関係の、恋愛ではない、友人でもない、身体の関係もない、けれど、他人ではない。 そんな不思議な相手を、俺は全力で助けたかった。

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