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四、脅迫したいな。⑯

Side 土御門吾妻 「っく」 馬鹿みたいだ。 馬鹿だ。馬鹿。 押し倒された瞬間、花渡の冷たい眼差しに気づいたがもう遅かった。 ネクタイで縛られ、暴れている俺に紙袋からローションを取り出した。 俺が、暇からもらった紙袋をここに置き忘れていたのが仇になった。 ローションの口を、尻に宛がわれ、暴れてもお構いなしに挿入してきた。 冷たいローションで畳も俺の下半身も滑ってベトベトになったころ、バイブを突っ込まれた。 中で振動して、ローションがぬちゃぬちゃと泡になって溢れてくる。 それでも玩具さえ受け入れたことのない俺の体は、避けるような痛みの中、バイブの振動で踏ん張ることもできず、与えられた刺激に身体を震わせるだけだった。 玩具なんて尻に突っ込まれて、身を捩って快感から逃れて。 縛られて自分からはその快楽から抜けられなくて。 それなのに、そんな風に俺を追い詰めた花渡本人は、優雅に雨の音と俺の押し殺した声を聞きながら本なんて読んでやがる。 「お風呂が炊けたら、抜いて上げますよ」 俺の顔の横に、通話中のままの携帯を置いたまま涼しい顔でそう言ってのけた。 俺がお前に何をしたんだ。此処までされるような何を――。 確かに綺麗だと、俺のモノにしたいと思ってた。 でも命令とかギリギリまで避けて我慢していたのに。 わざと挑発していたのは、こいつの澄ました顔を乱れさせたかったからなのに。 「うっ」 自覚したら、涙で視界が滲んだ。 快楽じゃない。これは俺の身体を、心を陥れているだけ。 虚しいだけの動作。 うっ 一度漏れた嗚咽は、後から後から部屋に響いた。 *** Side花渡 好きな作家の小説が、当時は買えなかった。 自由に使えるお金がなかったから、ではない。 明日生きれるかも分からないほどに貧窮していたから。 なので、一度も買うことはなく図書室でボロボロになるまで、何度も読んだ。 家に持って帰れば、売り飛ばしてしまう様な頭のいかれた親がいたので、図書室で読むしかなかったのだ。 私が一冊も買わなかったせいだろうか。 その作家はどろどろした恋愛物語を書くのは止め、官能小説に移行していた。 私が買っていたら、売り上げが少しでも上がっていたならば、官能小説家なんかにならずにすんだのだろうか。 女のからだの描写が生々しくて、読むのが億劫になっていた。 いや、もしかしたら私にはもう、昔のように本に胸を掴まれる様な心が残っていないのかもしれない。 「うっ ううっ」 目の前で、大人の玩具で身体を貫かれ嗚咽をあげているご主人さまを見ながら、心が渇いていくのが分かる。 ああ、先代さまには好きな作家を話したら翌日には全巻揃えてくださったっけ。 一度ぐらい――こんな風に怒りでいっぱいになるならば寝て差し上げればよかった。

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