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四、脅迫したいな。⑲
その場に居ては、式部に蹴り出されるだろうと車に乗り込んでみた。
暇さんが荒らした庭には、雨が染みわたっていく。
荒れて削られた地面に、ぼこぼこと水たまりができているのに頭が痛くなった。
ただでさえ、修繕費が膨大なのに。
もう痛みまくってどこもかしこもボロボロなのを、騙し騙し住んでいるのに。
じゃあ吾妻さんがこの土御門御殿を相続しなかったら?
さっさと取り壊され、親戚たちに何等分かに分けれら、残されることもなかった。
先代の残したかったただただ大切なこの空間を。
でも挑発したり、困らせたり、私を振り回そうとする吾妻さんに狂いそうになるんです。
目の前から消してでも、あの好意を消し去りたい。
正直に言えば、あんな綺麗な男の子に欲情しないわけがない。
その気がなければ、あんなデートクラブに売られることもなかったし。
タイプかタイプじゃないかと、恋話のように聞かれたら素直にタイプだと言うでしょう。
でもこの関係は普通ではない。
普通じゃない。でも普通じゃない生活の中で生きていたのだから、その異常な空間が私の普通なのかもしれない。
車を発進させるまえに、電池が30パーセントしかない携帯で電話をかけた。
電話はすぐに取られ、受話器越しの相手は低い声で唸るように電話に出る。
「すみません、社長……」
『プライベートのことには関与しない』
「ありがとうございます」
『だが、暇を傷つけないでくれよ。一応あれでも俺の可愛い弟だから』
可愛くねーけど、ど悪態をつくくせに、その根本はきっと今言った言葉が本音だろう。
「あの、その天使より可愛らしい弟君はどちらへ向かわれたのでしょうか」
『お前なあ』
「追いかけないと、私も相手も壊れてしまうかもしれないのです」
いや、私はとっくに壊れているか。
『暇なら多分あそこかなあ。お気に入りのホテルがあるんだよ』
「ホテル、ですか」
『あとは自分で探してくれ。俺は寝る』
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