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四、脅迫したいな。⑳
Side:土御門 吾妻
「大丈夫? 喋れる?」
献身的に俺のケアをしてくれる暇に、ついつい絆されそうになる。
こいつは誰も好きにならない、徹底した信念みたいなものがあるのに。
「……なんかまだ突っ込まれてる気分。足、超ガクガクしてる」
震える足を触っていたら、暇はケラケラと笑いだした。
「当たり前だよ。俺が襖あけて、バーンって入ったらさ、蛙みたいに足を広げた吾妻がいたんだから。超卑猥だったよ」
机の上に座って行儀悪いまま、足をぱかっと開く。
せっかく助けに来てくれた瞬間は恰好良かったのに。
「で、ここ何処?」
きょろきょろと辺りを見渡すと、ベッドと冷蔵庫しかない。
「俺の部屋。隣は壁一面、魚とか海の絵が貼ってるけど、ここは何もないだろ」
威張った口調で言われるが、なぜ寝る場所にモノがないのを威張るんだろ?
「本当は、いつものホテル行こうと思ったんだけど、止めた。あそこって岬の上じゃん? 雨の次の日の濁った海が嫌いなんだよね、俺」
ふぅん。
小さく呟いたあと、なんだか疲れて枕に顔を伏せた。
「やべぇ。落ち着いたら死にたくなってきた」
「あはは。なんで? なんで?」
ツンツンと横腹を突かれて羞恥から涙が浮かぶ。
「だっせぇじゃん。俺」
「まぁダサいけど。でも吾妻は、今日が花渡の大事な人の命日だって知らなかったの?」
大事な人の命日?
「え、毎年花束送ってるけど?」
「うそーん」
「一周忌に、心もこもってないのに墓に来るなって式部ちゃんに塩撒かれてから誰も近寄れなくて、前日に式部ちゃんに送るか勝手にそなえてるよ」
俺の発言に、暇は数秒固まった。
「えーと、多分、かなりすれ違ってる気がする」
暇は首を傾げつつ、俺が伏せた枕に自分も頭を乗せた。
「でも、覚えていたけど何もしないのは、忘れていると同じ事だろ」
誰もじいちゃんの命日に手を添える人はいない。
俺だって、式部ちゃんと花渡のような絆が、じいちゃんとはなかった。
だから、命日だと言われても俺は花渡と同じ気持ちにはなれないんだ。
「吾妻はどうしたい? 今、どんな気持ち?」
心に傷がついてない?
その言葉に首を振ると、枕をスッと横から奪われた。
「本当に? 顔、見せて」
優しく笑う暇の顔がそこにはあった。
寝そべって、髪がベッドの上に流れ落ちてる。
俺に、警戒してない。俺を理解しようとしてくれてる。
暇の前で嘘を吐いたらいけないって、つきたくないって思わすほどの、優しい雰囲気。
「……花渡が欲しかったんだ。すげえ、欲しかった」
「うん。うんうん」
「なのに、嫌われてて、超だせえ。恥ずかしい」
「うん。ぱかっ」
足を開いて、さっきの俺の恰好を真似する暇は、またケラケラ笑った。
「で、どうしよっか」
「……謝ったって許せないし、謝る気はないだろうし」
「でも吾妻の恋心は傷ついちゃってるし?」
にやりと笑う。
「さて、襲っちゃいますか。二人で」
「……」
「仕事の時にさ、外国輸入の強い薬飲んでんの。タイプじゃない相手でも立たなきゃ仕事出来ないからさ」
じゃーんっと、ピルケースから派手な色の薬を取り出した。
「酒に入れても良いけど、一番は直接中に入れちゃった方が早い。縛って、さっきの吾妻みたいにぱかって」
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