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覆水盆に返らず。還らず。帰らず。②
Side:吾妻
数時間の記憶がない。
この数時間の記憶が、ない。
が、実行してしまったのだろうと分かる。
「ねーねー、吾妻、見てみて、ろーそく! SM用の熱くない奴だよ」
「……暇」
「流石に大きな奴はないけど、段ボール二箱もローションやゴムあるのはすげえよね! 三人とも装着しながら会話でもする?」
自分で言いながら、その間抜けな恰好を想像して暇が笑い転げる。
笑い転げる暇を、ゴミのように冷たい眼差しで見ているのは……親指同士を後ろ手に拘束され、右足をベッドに手錠で拘束されベッドに座る花渡だった。
「……すいませんが、なぜ私の身体がふわふわ痺れているのでしょうか?」
「えっと」
「薬物でしたら、このまま出頭して貴方達も一緒に路頭に迷わせますが?」
不機嫌オーラ全開で怖い。
が、そんな花渡にも暇は爆笑たった。
「それは、薬が効いてきたんだよ! 身体全部が性感帯になっちゃう不思議な薬! 超合法だよ」
「……ここはどこですか?」
「うちの親父の別荘。別宅っていうのかな。昔、うちの母親を療養していた場所なんだよね」
えへへって暇は笑いながらテレビを付けた。
地元ローカルテレビが映り、此処が都内から離れている場所だと花渡も理解したのかため息を吐いている。
用意周到な暇は、カーテンどころかシャッターも下ろした窓で景観を隠している。
この数時間の記憶が、怒涛の事ばかりあって覚えていない。
ただ白くて綺麗なこの別荘には、四季を感じられる美しい庭と、二階がプールになっていることぐらい。
あとガレージに車が3台もあった、かな。
とにかく、暇が上機嫌ってことは作戦が上手く行ったんだと思う
乱れた花渡のスーツが、その余韻を色濃く残している。
「で、さっさとヤっちゃう?」
上の服をガバッと豪快に脱ぎながら俺と花渡を見る。
さっきから3人の会話が全くかみ合わないので、話が進んでいないんだけど。
「ヤるって」
「花渡をぐちょぐちょのどろどろの、よれよれにしちゃって、俺たち二人にメロメロになっちゃう作戦! だよね」
擬音が多すぎる上に、ほわっとしすぎな作戦だった。
「……良いですよ。別に」
俺が慌ててるのに対し、ベッドに座っている花渡は表情も変えずに言う。
「私が良いと言えば、強姦扱いにはならないでしょうし。いいですよ」
「おまえ」
「まじ? この玩具全部良いの?」
俺が言う前に、暇が先に玩具をベッドにドサドサと落としていく。
それを花渡はちらりと一瞥するだけで、表情からは感想が分からなかった。
「それで? 抱けばいいんでしょうか、抱かれればいいんでしょうか?」
「あ、どっちにしよう。俺、タチ専門だし」
「じゃあ貴方を受け入れて、吾妻さんを抱けばいいでしょうか?」
淡々と、つまらなさそうに言い張った花渡は、内心慌てている俺を見た。
今度は真っ直ぐに。
「ん、なんだよ」
「これであなたの傷が癒えるのでしたら、好きにしてください」
抵抗はしないと言わんばかりに、ベッドに仰向けに倒れ込む。
もう少し、嫌がるとか、泣くとか、ノリノリとか感情を出してくれないと俺だってどう接していいのか分からない。
でも、きっと。
玩具ばかり吟味している暇は、本番えっちはしないんだろうなって分かる。
花渡か俺に自分ではなく玩具で刺激を落とすはず。
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