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覆水盆に返らず。還らず。帰らず。③

「……正直に言ってほしいんだけど」 「はい」 「じいちゃんとは、ヤってたの?」 観念したように、上の服を脱ぎながら聞く。 残念ながら、俺はここで止めるという選択技は最初から持っていなかった。 嫌われてるならば、これ以上落ちることもないだろうと思ったし。 チャンスは、この騙し打ちを逃せばもうないんだろうって分かったから騙してでも、嫌われてでも、それでも俺は。 「ありませんよ」 俺はきっと貴方に触れたかった。 妖艶な雰囲気で俺を惑わせる。 ミステリアスで、綺麗で、感情が分からなくて。 それでも俺の心臓を掴んで離さない。 触れたいと心が騒いでしまう、人。 触れたかった。 もっと、もっと、身体の奥で。 「俺は、……こんな形で言うのは変だろうけど、何回か言ってるからも一回言う」 眼鏡に触れた。 銀色のフレームを抜いて、素顔を曝け出させてみせる。 「やっぱアンタが欲しいんだ」 眼鏡が邪魔だ。 本心を隠してしまわないように、奪う。 けれど、表情を見せてくれないならば目も要らないのかもしれない。 口づけを落としながらずっと目を見た。 何を考えているのか、理解しようと目を見る。 ひんやりして柔らかくて、何回も啄んでしまう唇。 真実なんて吐かないその唇に、何度も何度も俺も言葉を吐かない唇を押しつける。 好きだって言ったら、少しは表情を変えてくれるのだろうか。 あの雨の日、腐敗して崩れて行く屋根のように。 簡単に俺の小さなプライドは崩壊した。 あと一息。 多分、雨漏りのように小さな滴ぐらいの衝撃でいい。 小さなきっかけで良かった。 そんな切っ掛けで俺のアンタへの小さなプライドは壊れた。 アンタに足を広げられ、下着を脱がされ、触れられ、見下ろされ、堪らなく切なくなった。 好きなのに、アンタは違うんだろうねって切なくなった。 その代り、振り向いてほしいと希う自分の姿を知ったんだ。 押しつける、下半身の熱。 それは一方的に押しつける歪な愛の形に似ていて、熱しやすく折れやすい。 歪な愛の形はきっと、貴方の中に侵入したら壊れてしまうか、貴方を傷つけてしまうだろう。 願はくは、貴方の愛が欲しい。 愛で俺を貫いてほしいんだ。 ズボンを脱がして跨って、下着越しに花渡の上から擦る。 反応していない花渡に、胸が締めつけられたけども諦めずに握る。 「……俺、吾妻弄っちゃおうか。花渡弄っちゃおうか」 うろうろと、手持無沙汰な暇がベッドの周りをうろつく。 が、何を思ったか暇も花渡に跨り、後ろから俺に抱きついた。 「薬で全身が性感帯なんだから、他も弄ってみたら? 胸とか」 後ろから耳元で小さくアドバイスをもらい、息を飲む。 言われたとおり、肌の上を指が滑ると小さく漏れる声がした。 覆いかぶさり、舌に唾液を含んでから胸の尖りを舐めた。 「――んっ」 小さく鳴くと、胸は芯を持ち破裂しそうなほど尖った。 やった! 喜ぶ俺の後ろで、今度は暇が手を動かす。 「え、ひ、ゃああっ」 両胸の尖りを指先で摘ままれ、ころころと転がされ腰が浮いてしまった。 「あはは、超可愛い。可愛い吾妻ちゃん」 「ばっ つ、爪で押し込めんなっ」 「もっと鳴いてよ、吾妻。――花渡が興奮してるよ」

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