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覆水盆に返らず。還らず。帰らず。④

暇の言葉に、咄嗟に花渡を見下ろすと赤く染められた頬と、荒い息で胸が上下してるのが見えた。 やばい。 駄目だ。 これは駄目だ。 咄嗟にシーツで花渡の顔を隠した。 「何? 何? あ、顔見ないでやるプレイ? 鬼畜?」 慌てる暇に、俺は観念したように振り返る。 「だめだ。俺、めっちゃ駄目だ」 既に日本語も崩壊していたが、ぽろぽろと涙が零れてしまった。 「ん? どした?」 口調が優しくなった暇に、申し訳ないと思いつつも首を振る。 「こんな花渡、誰にも見せたくない。俺のモノにしたい。……俺だけのものがいい!」 花渡が興奮してくれてるのは、ゲイの撮影用の薬のおかげだし。 暇もいるし。 「何それ。そんなのずるい。俺もいれて。俺の場所も欲しい」 急に真顔になった暇は、立ち上がって鞄から札束二個をテーブルに放った。 「今日は二人とも買うから、200マン、ね。いいでしょ?」 「……お金はいらない、けど、でも」 「でも、何?」 フッと目の前が陰り、暇に唇を押しつけられた。 暇から触れてくることはなくて、抱き締められることしか無かった。 から、なんだか、こんな時なのに、ちょっとだけ泣き出しそうな嬉しさがこみ上げてきた。 「……お二人でちゅっちゅっとネズミですか」 置いてけぼりになった花渡が、甘いため息を零す。 「さっさと三人で、やればいいでしょ」 一番、この中で冷静で、理論的で、被害者のはずの花渡の方からの提案に、俺と暇は顔を見合わせた。 「シーツを退かして下さい。ネズミの顔が見えません」 「……分かった」 覚悟を決めて、再びシーツを外した。 覆い被さるように花渡の熱くなりだした熱芯と、自分のすでにとろとろと先走りを零している熱を握り、上下に動かす。 すると暇が花渡の顔を背に跨り、俺に思わず悲鳴を上げてしまいそうな巨根を差し出した。 「……まじか」 「モザイクの先は、挿してないことの方が多いんだよね。――ね?」 髪を撫でられ、頬に触れ、顎を持ち上げられた。 覚悟を決め、舌を出し小さくぺろっと動かす。 初めての味に戸惑いつつも、下半身はどんどん熱に溺れ、頭はとっくに正しい思考が分からなくなっていた。 ぺろぺろと舐めて、堕ちていく唾液が、――花渡の胸を濡らしていく。 口に頬張る気も起きないほどの巨根に驚きつつも、舌を動かすうちに顎が疲れてきた。 その反動で、握った手の動きも早くなる。 ――オレ、ほんと、何してんだろ。 どんどん遠ざかる。 本当に一人占めしたい熱は、恋焦がれる熱はただ一人に注ぎたいし、――注がれたいのに。 他の人とデートしたり、ルイ君みたいな可愛い子を騙して恋人気分を味わったりしたって満たされないのは、手に入らないから燻っている俺の心。 本当は花渡とだけで、二人で、こうして身体を重ねていたかったのに。 暇がするりと入ってきてくれた。 オレと花渡の二人に足りない何かを、必死で補ってくれようと。そして、一人にしないでと縋ってくるその背中も、放っておけないとさえ素直に思えた。 ぴちゃぴちゃと、音を立てて焦がれる恋心。 ぬめってどんどん溢れて指先を濡らす、恋心。 きれいじゃなくて、現実は汚いのに。 それでも俺たちは、快楽で真っ白になった頭の中で、その熱に溺れて行くことしかできなかった。 「んんっ」 舌が離れ、足の指先がしなる中、手の中の二つの熱が爆せられた。

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