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覆水盆に返らず。還らず。帰らず。⑥
「好きならまず、自由にしてください」
「それは、いや、かな」
嫌だ。
一度手に入れてしまえば、もう離したくない。
手を伸ばして、暇が置いて行った玩具を持ち、電源を入れてみる。
バイブの振動で揺れる玩具を見ながら、ぽとんと花渡の胸に飛び込んでみた。
「……そんな趣味はありません」
「じゃあ、これで趣味じゃない事をされたくなければ、黙って俺を胸の中に抱きなさい」
ポスンと胸に頬擦りすると、花渡は一ミリも動かなかった。
「手の拘束を解いてくれたら抱き締めてあげられ――」
「うるさいよ。そんな嘘、期待しないから」
拳銃のように、玩具を顎に押し付ける。
すると、観念したかのような乾いたため息のあと、目を閉じた。
「好きにしてください」
「まあ、最初から好きにしてるけど。好きだから」
一人で爆笑しながら言うと、花渡は俺の方を見た。
そしてあっという間に玩具を口に咥えて奪うと、ペッと床へ吐きだした。
「……そんなワイルドなこともできるんだね、アンタって」
いつも一寸の乱れもない髪がベッドに流れ落ちてるのって悪くない。
眼鏡で隠した素顔が見れるのも。そして自由を奪ったこの状況も。
「で、貴方達はこのままいつまで、私を監禁しようとしてるのでしょうか」
「さあ? 計画的犯行だけど、それ以降は考えてなかった」
「安易で単直で衝動的な行動で、こんなことをしたと」
「土御門御殿での花渡の行動と一緒じゃない?」
そう言われたら、ぐうの音も出ないのか露骨に眉間に皺を寄せた。
突発的と言えば突発的だし、計画的と言えば計画的だし。
そして、とくに先の事を考えてもいない。
ただ、ただただ、今この空間に閉じ込めているのが面白いだけで、歪んでいて、それでも愛で。
「大丈夫だよ。毎日交代で面倒見るし。トイレも介助するよ」
「本気でやめてください」
げんなりしている花渡を見ていたら、雨の日の事件が嘘のように思えた。
ので、熱い熱いキスを送っておいた。
***
花渡を監禁したまま大学へ行って、そのままルイくんとデートした。
その日はルイ君の買い物に付き合って、ファミリーレストランへ。
ルイ君が庶民的なデートや食事をもっと経験したいと言う要望から、俺が家族で行く店やレストランを案内しただけだった。
そこで、人が少なくなってきたのでルイ君にだけは正直に言ってみた。
のに、ルイ君は真っ青な顔をして歯で噛んでいたストローをポロっと落したのだった。
「え、好きな人を監禁した……?」
「うん。手に入らなかったから。あと傷ついちゃったから」
「え、でも、……もっと嫌われちゃうんじゃないの?」
「大丈夫大丈夫。これ以上嫌われないって」
あははーっと笑ってグラスの中のジュースを飲む干すと、ルイ君は困ったように下を向く。
その仕草が、なんだか可愛いなって思う。
店じゃなかったら抱き締めてキスしたいぐらい可愛い。
「……駄目だよ。手に入らないからってそんな不道徳的なこと、ダメだよ。そんなに寂しいなら僕も吾妻の力になるからさ」
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