58 / 132

得て、失いて。③

「へ? なんで俺よ」 「どうやらちょっとゴタゴタがあったらしくて。――貴方が母親の二の舞になられてはいけませんので」 「俺を心配してくれてんの? やっちゃう? カーセックスしちゃう?」 「死んでください」 二人の会話が、イチャイチャしているように思え、世界が一瞬で色あせた。 この壊れかけの土御門御殿みたい。 二人の会話する距離がやけに近いのも気に食わなかった。 「あれ、吾妻どこいくの?」 「歩いて帰る!」 馬鹿みたいだ。 「え、花渡とイチャイチャすんじゃねえの? なんなら送るけど」 「今は暇もライバルだから」 沸々と煮えたぎる嫉妬心が、面倒くさいほど熱くて。 意味もなく周りを火傷で傷つけてしまいそうだっだ。 「待って下さい。吾妻さん」 追いかけてくるのが遅い。 所詮、大事な暇の次だとうしな。 「吾妻さん、お待ちください」 田んぼの間のでこぼこと舗装されていない道を歩く。 すると、少し距離を取ってから花渡が付いてきていた。 「吾妻さん。そちらに行かれたら駅から反対ですよ」 ぬかるんだ土を蹴りあげながら、無視して歩く。 すると、呆れたような溜息を吐かれたが花渡もついてきた。 「此方の田んぼ、水を貼ると空を映して綺麗なんです。見たことありますか?」 「……」 「もう少し行くと、綺麗な川が流れているのですが、そこには蛍がいるんです。私は汚れてるので、そんな綺麗な蛍を見ることもおこがましいのですが」 「花渡が汚いわけないじゃんか! 水をはった田よりも蛍よりも、俺にとっては綺麗だし! 閉じ込めてエロい事したいぐらい好きだし!」 「……こちらを向いて下さい、吾妻さん」 考えていることが、ぐちゃぐちゃ絡みあって、何に怒っているのか、何を一番伝えたいのか俺には全く分からなくなっていた。 でも今、目に映っている全ての中で、やっぱり一番綺麗なのは花渡だと思った。 「……どうせ、ガキだって呆れてんだろ。無表情で俺を見やがって」 「そうですね。私を挑発していた頃から呆れていましたよ。でも私に色んな感情を下さるのも、そのガキっぽい貴方なんですよね」 表情が全く変わっていない癖に、どの顔でそんな事言うんだ。 そんな事言ったって、まったく信じられる要素など無かった。 「もう放っておいて」 「この先には山しかありません。山には猪が出ますよ」 「別に平気だし」 「本当の猪を見たことがないからそんなこと言うんです」 いい加減、回りくどい言い回しばかりで腹が立つ。 感情も表情に出さない。 言葉でも何もくれない。 監禁しても怒りもしない。 怒ったのは、俺がデートクラブでバイト始めた時とか、じいちゃんのことだけ。 「お前、はっきり言えよ。どうしたいんだ」 「……貴方に任せます。私のご主人さまなので」 その発言にカッと頭に血が上って、思わず突き飛ばしていた。 突き飛ばして馬乗りになって、胸ぐら掴んで、叫んでいた。 「だから! そんなんじゃ満足できないって! 馬鹿じゃねえの!」 命令だから傍に居てくれて、命令だからエッチさせてくれて、それで俺の心が満たされるほど大人になれない。 「……初めてあったあの日、じいちゃんの妾だって噂されてた時から、ずっとあんただけだ。あんたしか綺麗だって思ったことなかったし。あんたに欲情したし、なんで俺のモノじゃないんだろうって発狂しそうだった」

ともだちにシェアしよう!