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得て、失いて。③
「へ? なんで俺よ」
「どうやらちょっとゴタゴタがあったらしくて。――貴方が母親の二の舞になられてはいけませんので」
「俺を心配してくれてんの? やっちゃう? カーセックスしちゃう?」
「死んでください」
二人の会話が、イチャイチャしているように思え、世界が一瞬で色あせた。
この壊れかけの土御門御殿みたい。
二人の会話する距離がやけに近いのも気に食わなかった。
「あれ、吾妻どこいくの?」
「歩いて帰る!」
馬鹿みたいだ。
「え、花渡とイチャイチャすんじゃねえの? なんなら送るけど」
「今は暇もライバルだから」
沸々と煮えたぎる嫉妬心が、面倒くさいほど熱くて。
意味もなく周りを火傷で傷つけてしまいそうだっだ。
「待って下さい。吾妻さん」
追いかけてくるのが遅い。
所詮、大事な暇の次だとうしな。
「吾妻さん、お待ちください」
田んぼの間のでこぼこと舗装されていない道を歩く。
すると、少し距離を取ってから花渡が付いてきていた。
「吾妻さん。そちらに行かれたら駅から反対ですよ」
ぬかるんだ土を蹴りあげながら、無視して歩く。
すると、呆れたような溜息を吐かれたが花渡もついてきた。
「此方の田んぼ、水を貼ると空を映して綺麗なんです。見たことありますか?」
「……」
「もう少し行くと、綺麗な川が流れているのですが、そこには蛍がいるんです。私は汚れてるので、そんな綺麗な蛍を見ることもおこがましいのですが」
「花渡が汚いわけないじゃんか! 水をはった田よりも蛍よりも、俺にとっては綺麗だし! 閉じ込めてエロい事したいぐらい好きだし!」
「……こちらを向いて下さい、吾妻さん」
考えていることが、ぐちゃぐちゃ絡みあって、何に怒っているのか、何を一番伝えたいのか俺には全く分からなくなっていた。
でも今、目に映っている全ての中で、やっぱり一番綺麗なのは花渡だと思った。
「……どうせ、ガキだって呆れてんだろ。無表情で俺を見やがって」
「そうですね。私を挑発していた頃から呆れていましたよ。でも私に色んな感情を下さるのも、そのガキっぽい貴方なんですよね」
表情が全く変わっていない癖に、どの顔でそんな事言うんだ。
そんな事言ったって、まったく信じられる要素など無かった。
「もう放っておいて」
「この先には山しかありません。山には猪が出ますよ」
「別に平気だし」
「本当の猪を見たことがないからそんなこと言うんです」
いい加減、回りくどい言い回しばかりで腹が立つ。
感情も表情に出さない。
言葉でも何もくれない。
監禁しても怒りもしない。
怒ったのは、俺がデートクラブでバイト始めた時とか、じいちゃんのことだけ。
「お前、はっきり言えよ。どうしたいんだ」
「……貴方に任せます。私のご主人さまなので」
その発言にカッと頭に血が上って、思わず突き飛ばしていた。
突き飛ばして馬乗りになって、胸ぐら掴んで、叫んでいた。
「だから! そんなんじゃ満足できないって! 馬鹿じゃねえの!」
命令だから傍に居てくれて、命令だからエッチさせてくれて、それで俺の心が満たされるほど大人になれない。
「……初めてあったあの日、じいちゃんの妾だって噂されてた時から、ずっとあんただけだ。あんたしか綺麗だって思ったことなかったし。あんたに欲情したし、なんで俺のモノじゃないんだろうって発狂しそうだった」
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