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得て、失いて。④
俺は、ただ欲しいモノが手に入らなくて、地面に寝転がって暴れているガキだった。
欲しいモノは、金じゃ買えないものだったから、悪いことしてわざとこっちを見てもらおうとした。
でもちょっと嬉しかったんだ。
俺がデートクラブでバイトするって分かって、怒ってたの。
別に俺の為に怒ったんじゃなくても嬉しかったんだ。
それから何度か挑発して、甘えてみた。
口でシてもらったのは初めてだったけど、むちゃくちゃ感じた。
お仕置きと称して玩具で乱暴された時は、恥ずかしくて泣けたけど。
でもその後、ご機嫌伺いのように監禁させてくれた。
そんな風に、俺の感情をいっつも操作してんのは、この綺麗で最低で、ロボットみたいに冷たくてそれでも心を奪って返してくれない男だ。
欲しいのは、花渡の心。
俺を心から愛してほしい。
大粒の涙が、頬を伝う。
すると、それを見ていた花渡が静かに言った。
「いいですよ」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
目を大きく開けると、溜まっていた涙が、ぼたぼたと落ちて、花渡の乱れた浴衣にしみ込んでいく。
「いいですよ、って言った?」
「はい」
「そんな、簡単に言ってんじゃねえよ。俺はお前と違って裕福な家庭で育ったんだぞ! ぬっくぬくの甘ちゃんで……お前の痛みに気付いてやれないかもしれないし」
「そこが私の欲しかった部分なんで、多分大丈夫でしょ」
「多分じゃ駄目だ。俺、絶対超嫉妬深いし、浮気とか許せないし」
「残念ながら、今まで人に興味を持ったことがありません。貴方が初めてです」
「表情変えずに言うなよ、馬鹿」
ぐしゃっと顔を歪めてしまった俺の頬に、花渡は指先で優しく触れてくれた。
「……私は甘い言葉とか、嬉しくなるような言葉をあげられないかもしれないのですが、貴方が教えてくれるってことでいいですね?」
月に照らされ、朧げな花渡の顔を見下ろす。
表情は変わらなかったけど、両手で押しつぶす様に触った頬は火傷しそうなほど温かかった。
「花渡、抱っこ」
本当に蛍が今にも飛びだしそうな、人より畑の方が多いこの街並みの中、俺は花渡に抱っこされて歩く。
「……これ抱っこ、かな」
「違いますか? でも貴方、足が長いのでお姫様だっこはちょっと」
「でも米俵担ぐみたいに抱き抱えられるのも、ロマンがねえぞ」
「そうですか。じゃあお姫様だっこしますね」
「一緒にお風呂も入ろう。泥だらけだし」
「あ、暇さんももしかしたらまだ居るかも」
暇はそんな空気を読まない奴ではないからもう居ないと思うけど、あいつなら別に構わない。
「じゃ3人一緒に入ろうか」
「そうですね」
甘く、ピンク色の空間で見つめ合い笑う。
これってあれだよな。正式に俺たちは恋人ってことでいいんだよね?
「なあ、花渡……俺達って恋人って事で――」
首に手をまわして聞こうとしたら、土御門御殿の門の前でドサドサっと何か大きなものが落ちる音がした。
花渡と俺は其方を見ると、段ボールを落とし、その段ボールの中に入っていた野菜を散乱させている式部ちゃんが青ざめた顔で立っていた。
「なにやってんだ。男同士きっしょいな」
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