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得て、失いて。⑤

「なにって、俺が当主なんだから花渡に何してもらおうといいじゃん」 「よくねえよ。自分の兄がホモだという現実を直視できねえ乙女の気持ちになってみろ」 「……別にホモじゃないですが、吾妻さんは気になってるだけです」 さらりと言ってのけた花渡に、式部さんは『それがホモっていうんじゃねえのか』と言いたげな顔をしていたがなんとか押さえていた。 「吾妻さんは料理できますか?」 「したことねえかな」 俺が正直に言うと、目元が少し優しくなったように感じた。 「一緒に作りませんか。私はできますよ」 「え、まじで」 「嘘だよ。兄貴は鍋しか作れなねえから」 「じゃあ今日は」 「鍋ですね」 得意そうに言う。 そうだ。そんな人間らしい素振りもできるわけで。 だったら。 「もしもし、暇さん? 今どこでしょうか。2丁目のゲイバー? 今すぐ会長の家に戻らなければ死にますよ。――はい。私から殺されますよ」 だったら仕事かプライベートか分からない事をしないでほしい。 せめて断ってから電話しろよ、いきなり電話かけ出すとびっくりする。 「暇、ほんと大丈夫なの?」 「一応です。向こうのお祖父さんが倒れたので、暇さんはお孫さんに一応なるからですね、ややこしいんですよ」 「兄貴は企業専門だから本当は遺産相続とかの弁護士じゃねえからややこしいよなあ」 「式部の方が少し得意ですよね、あ、美味しそうなキノコです」 二人は落ちた野菜を拾いながら、暇から鍋の話へ移っていく。 企業専門なのか。でもじいちゃんの弁護はしてたのにって、今は毒を吐けない気分。 夜空は綺麗だし、幸せなんだけど、なんだかとても不思議だ。 暇は大丈夫なんだろうか。 なんだか嫌な予感がして落ちつかない。 「な、なあ暇って」 「暇さんならさきほど会長のご自宅に強制連行された模様です」 花渡の携帯に誰かからメッセージが来ている。 「まあ暇も可哀相だよなあ。自分産んだせいでぶっ壊れた母親が居る自宅に強制連行だなんて」 「そうですか? 面倒が起きる前に防止して頂けると助かりますね。安全な場所で生活できるだけありがたいと思うはずなのですが」 断言する花渡の横で、式部ちゃんが苦笑する。 「これ、まじで素で言ってるから。兄貴、かなり天然だから」 「まあ、いいよ。今は幸せだから」 暇の話も式部ちゃんの話も半分ぐらいしか聞かず、俺は自分の世界に浸る。 花渡と縮まった距離に。 「なあ、花渡」 「はい」 「……デートクラブなんだけど、その……もう新規の客はどっちにしろ今は入れてもらってねえんだ」 というか、花渡を監禁した日から行っているふりをしていたがHPからは看板プロフも外して貰っている。 「別に止めなくてもいいですよ。それぐらいで今さら貴方を幻滅したりしませんので」 「まじで、それ結構複雑なんだけど」 止めてと言ってくれた方が俺は嬉しいけど、信頼してくれてると思えば喜ぶべきなのか。 どちらにせよ、でも花渡から拒絶のオーラが無くなったので全力で行こうと思っている。 ルイ君がこのデートクラブを止めるその日までは続けたいとは思っていたしね。 「式部ちゃん、そろそろ空気読んで一人暮らししない?」 「死ね」 式部ちゃんの言葉に、晴れ渡っていた俺の気持ちはさらに澄みわたり爆笑していた。

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