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愛について。②
口では散々暴言吐くけど、なんだかんだ言って兄貴は俺に優しいし甘いから、心配させるわけにはいかない。
「……お前、優しすぎるよなあ」
「そうー? 一番大切なモノが俺にはないんだよ。親父みたいな大切な存在がさ」
二人で母親の方を見る。
するとイソギンチャクと骨を投げ合いっこしていたはずが、いつしか縁側に置いてある一人掛けのチェアーで丸まって眠っていた。
胸の中でイソギンチャクも気持ちよさそうに眠っている。
親父がタオルケットをかけると、額にキスする。
壊れて無垢な少女のようになった母親を、親父は愛していると言っていた。
性欲なんざ一瞬でも向けてしまえばフラバで壊れてしまうような母親に。
俺は青桐家で育ってるから、母親がどんな人だったのかよく分からないままだけど、子どもの頃から親父のこの態度は変わらない。
「いいねえ。人を好きになるって」
「いいぞ。男でも女でも、こだわらず探してきなさい」
「でもさあ、親父」
「ん?」
「別に汚いモンを相手に突っ込まなくても人って愛せるだろ?」
「……は?」
「だって今の母さんに親父は欲情しないけど愛してるんじゃん。俺も、それでいい。汚いモン、誰にも突っ込みたくねえ。一生」
混乱している顔の親父に、俺は思わず笑ってしまった。
「あはは。AVはね、ファンタジーだから。実はモザイク濃くして入れてなかったり、まあ大体は本当にいれるけど、ビジネスだから。愛じゃないよ」
「まて、暇。お前、色々と間違えて結論を出してしまっているぞ。違う。話しあおう」
「いやだよーん。さ、仕事仕事。かあさーん、行って来るね。イソギンチャクも」
追いかけてくる親父から擦りぬけて、家を出た。
すると家の前に白いベンツが停まっていて中の人と目が合ったのだけは強く印象に残っている。
鋭い、鷹みたいな目。野性的で、支配的で、貪欲そうな目。
家の目の前に車止めるとか、すげえ度胸あるよな、なんて思ったが、気にしない素振りで車に乗る。
車でそのベンツとすれ違う。
するとすぐにベンツがバックしてUターンして俺の後をついてくる。
まじで俺の客だったようだ。
仕事、遅刻しないといいんだけどなあ。
そう思って思い切りアクセルを踏み込むと、人の多い中心部目掛けて走る。
暫くは、吾妻と花渡にも会えそうにないな。
だってそれが俺の精一杯の愛の形だし。
歪んでるし、ちんこ起たない愛ってことであの二人に伝わったらいいんだけど。
ミラーを確認したら、その車はまだ俺を追っていた。
仕事場まで巻けますように。
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