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愛について。③
***
ぽとりと、落ちる。
音もなく消えていくよりも、儚く最後に存在感を残して消えていくような、そんな悲しい音がした。
「そーいや今月暇から依頼来るのかな」
トントンとまな板を叩く音。パチパチと魚の皮が弾けて、焼けていく。
ぽとり、トントン、パチパチ。
「確定申告たいへんですよ。貴方、一応まだ親の扶養なので」
「うそ。もー要らないよ。金貰うほどのこともしてねえしなあ」
ルイ君からも予約入らないし、ちゃんとしたバイトして親に言い訳考えておこうかな。
「お前らさ、可愛い女の子が朝ご飯作ってやってるのに、よくもまあそんな座っておしゃべりなんかできるな。死ねよ。亭主関白野郎ども」
味噌が入ったお玉を振りまわしながら、式部ちゃんは怒っていた。
が、まだちょっと眠たそうな花渡は全く表情を変えない。
「じゃあ大根でもおろすし。花渡は隣でギュって搾って」
大根と擦り下ろし機を持って再び座ると、次は携帯を持ったまま花渡が携帯をじっと見ている。
「どうしたの?」
「あ、やべ。なんか焦げてる? うわ、こっち忘れてた」
慌てる式部ちゃんも全く気にも留めずに、花渡は眉をしかめる。
「花渡?」
「……いつも連絡させてるのですが、来ないですね」
「……?」
「暇さんです。今日は仕事だと確認済みだったのですが事務所に到着したら連絡下さいって言っておいたのに」
「それってやべえの?」
「いえ。どちらか言えばマメに連絡しない人なので。でも……」
何か感じたのか、立ち上がる。
「着替えてきます。式部、すいません、朝食は」
「ああ。まだ出来ねえし。できたら置いとくから」
二人は以心伝心と言わんばかりに互いに背中を向けたまま話す。
「俺はどうすんだよ」
「私の朝食が食べれないと言うのか」
包丁を向けて言われたら、大人しく従うしかない。
けれどざわざわと俺の中にも嫌な予感が沸いてくる。
暇の居場所を把握しておかないと安心できない状況って一体どれぐらい危険な状況なんだろう。
***
Side 暇
「まじかよ。監禁生活一日目ってか。まじかよ」
頭をバサバサ掻いてみたが、目の前の状況が良くなるわけではない。
まさかのまさか、スタジオ入りする一歩手前で拉致られるとは思わなかった。
スタジオの駐車場で車から出たところを、四人ぐらいの悪そうなやつらに拉致られた。
花渡に電話しようと携帯をタッチしたがほんと一瞬で視界と手の自由を奪われ、大声をあげないように口を覆われたまま、ずるずると車の中に押し込められた。
数時間は車の中に居たと思う。
だから下手したら、九州の母親の実家まで連れて来られたのかもしれない。
「まじかよー。あんたらお金大丈夫? 仕事の違約金ちゃんと払えよ。何十万とかじゃねえんだぞ」
ごっくん10本の予定だったから汁男優10人呼んでたんだから、すげえ迷惑かけてる。
目隠しを解かれ、部屋に押し込められてどれぐらい時間が立ったのか分からないけど、部屋の襖の向こうで見張ってるやつらに悪態つくぐらいしか考えられない。
すげえ最悪。
なんか、この前行った土御門御殿よりもしっかりした日本家屋って感じ。
「おい、中にいるのか」
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