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愛について。⑤
くそ田舎の偉そうぶってるだけのクソヤクザ。その中でもこの男はインテリぶりたいのにどうみても武装野郎なんだよな。
「お前の弱み握れるかと色々探ったんだが、何もねえな」
「……当たり前だろ。あんたらが暇つぶしでできちゃった俺だよ。明日死んでも困らない生活してるし」
今まで何にも執着してこなかった。
寂しい時は金で時間を買った。
楽しいと思うことはいっぱいあったけど、次の日には忘れることにした。
悲しいと思う心は欠如してる。
エッチは嫌い。
女も嫌い。弱いから。暴力もヤクザも嫌い。
お金と嘘の世界を演じるのは好き。
「愛もねえくせに、女抱いてんじゃねーよ。クソヤクザ」
クスクスと笑いながら言うと、下曾根は黙った。
「……あんたの母親は綺麗だったんだよ」
綺麗だったから欲情したのかよ、と笑ってしまいたかったが止めた。
帰りたい、と思う場所も特にない。
吾妻と花渡は、もうお互いに大切だと思ってるから、……そこに入れたらいいなと思う。
本命ではないなら、傍にいたい。
花渡と吾妻のセックスは、なぜか想像しても嫌悪はしない。
それに居心地がいい。
なんにもないし、死んでも誰も困らないだろうけど、あいつらはちょっとだけでも悲しんでくれそうな、そんな関係なんだよな。
「……ヤクザって結婚できんの?」
「当たり前だ。だが碌でもねえ男たちが集まってんだ。うまくはいかねえな」
「そうだよね。本当に愛してるなら結婚できないだろうね。敵にれいぷされちゃうかもしれないのに。俺だったら絶対、結婚しないな」
それほど俺の中に、母親の事件が色濃く残っている。
そうして生まれたのが自分だから尚更だろう。
「何がいいてんだ、暇つぶし」
俺のだらだらした発言に、下曾根が露骨に不機嫌になった。
「あんたらに愛なんてないってこと。爺共々死んでしまえよ」
下曾根にそう言った瞬間、廊下で数人の足音が聞こえてきた。
ゲイビみたいな展開かよ、まじかよ、鬱だわ、と呑気な考えが浮かんでは消えていく。
生まれた家を選べないって点では、俺と花渡は似ていたのかもしれない。
吾妻に聞いただけだし、本人は俺のこと気嫌いしてるのか、兄貴には極力近寄りたくないって(多分一度押し倒したせいだけど)言ってたから本人からは何も聞いてないけどさ。
生まれる腹は選べないんだよ。なのに、親や出生や、その親の悪行に子どもが振りまわされていいのかよ。
暇って名前の時点で、俺は恵まれてねえし、期待しないで生きて来たから分かる。
兄貴はちょっと境遇が違うが、あっちは別に胸張って生きてるしそれはそれでいいとは思うけどさ。
「少しはビビんねえのか、ガキ」
「……馬鹿だね。俺は生まれた時から何も期待してねえんだよ」
此処でどんな酷い目に合うのかとかどうでもいい。
そう思っていた。
下曾根は乱暴な言葉で切れたり、俺に殴りかかったりはしなかった。
ただ俺を睨みながら、携帯を取り出した。
「おい。ゲイ男優見たいって言ってたやつら、入ってこい」
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