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愛について。⑦
自分の身体を触ってみたが、怪我した部分が無くて首を傾げる。
もしや鼻血でも出たのかもしれない。鼻に指を突っ込むと、ビンゴなのか瘡蓋みたいな血の塊が取れた。
「何してんの」
泣きそうな、恨めしそうな顔の吾妻が睨むので、突っ込んだ指を見せた。
「や、運ばれる時に鼻でも打ったんじゃねえかな、ほら」
指先を見た吾妻が、じわりと涙を浮かべて俺の胸に飛び込んだ。
「ばか、こんなときにふざけんなよ、馬鹿じゃねえの、ばーか」
「うん。馬鹿かも」
「その指、洗うまで触ってくんなよ」
悪態を付く癖に、鼻に突っ込まなかった手は掴まれたまま。
「なあ、暇」
そよそよと風が吹いていた。
廊下から見える庭は、古くて崩れ落ちそうな様子だったが風だけは新鮮で心地が良かった。
「俺が大学卒業したら、三人と式部ちゃんであの屋敷に住もうよ」
「あはは、いいね、それ」
「俺、本気だから」
***
Side:吾妻
式部ちゃんが怒る中、俺と花渡は飛びだして、暇が乗っていた車がもぬけの殻になっていたのを見て愕然とした。
「……運転席の足元に血痕がありますね。警察に連絡しましょうか」
花渡の隣には、暇を3倍ぐらい怖くしたようなおっさんが渋い顔をして車を見ていた。
暇のお兄さんらしい。たまにルイ君と使うあのアダルト玩具の社長だ。全く俺のことは見えていない様子。
「暇が傷つくんじゃねえだろうか」
渋い顔のまま、開けられたままの車のドアをなぞりながら低く唸るように言った。
「暇はこれからずっと、ずっと傷ついた過去を背負ってしまうんじゃねえだろうか」
「……社長」
「暇は一応顔が世間に割れてるんだ。面白がった記事にされるのが目に見えている。あいつらとすっぱり縁が切れたらそれでいい」
「分かりました。それを致しましょう」
花渡は表情も変えずに淡々とそう言うと、俺を見る。
「貴方のご友人のお力を貸して頂けたら、簡単にできましょう」
「え、俺の友人?」
最近ほとんど取り巻きを切ったから、俺の友人と言えば聖ぐらいなんだけど。
「ええ。暇さんのファンで、裏で色々と暗躍して下さってる議員さんの息子さんなんですが」
「あ」
ルイ君――。
「ルイ君は友達じゃないよ。バイト先の客なんだ。ルイ君の言うことを親が聞いてくれる様な環境でもないし」
「ですが土御門のデートクラブを使う当たり、土御門家とご縁があるんじゃないでしょうか」
「うーん」
ルイ君の迷惑になるのははっきり言うと嫌だ。
けど今は手段を選んではいけない。
「暇が浚われたって話はしていい?」
「勿論です」
こんな時に頼ったら、信頼関係とか壊れないかな。
そもそもルイ君はお金で買ってる時間だけの関係だから面倒くさいことは頼みたくないし煩わせたくない。
「……吾妻さんが思うより、彼は強かですよ」
花渡のその言葉は、意味が分からなかったけれど、すぐに電話が繋がったルイ君に事情を話して二時間後だった。
暇の居場所をルイ君が突き止めてくれたのは。
「暇さんは無事だよ。さっきうちの弁護士経由で手を出すなって警告しといたから。すぐに救出しよう」
あの芋っぽかった、七五三みたいなスーツであわあわしているルイ君の姿はそこにはない。
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