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愛について。⑫
「えー、ひぇ! まじかよ」
「うん。俺の鞄には常備してるんだ。使い捨てローション」
「そんなのまで売ってるのかよ、暇の家の会社」
「そーだよ。見る? あ、待ってて、これこれ」
小さなパッケージを切り、手に液体を出すとぬちゃぬちゃと混ぜだした。
しかも香り付きなのかうっすら甘い匂いまでする。
「一個じゃ不安だし、あと二枚ぐらい破ろうかな。吾妻、俺手がぬちゃぬちゃだから開けて」
「あーはいはい」
折角花渡が甘い雰囲気にしてくれてたのに、台無しになってしまった。花渡も興醒めしたのか落した眼鏡をまたかけ直す。
「あの、入りますよー」
チャイムの後に、玄関の鍵が開く音がして俺はベッドから飛び起きる。
「おいで! ルイ君」
「あ、あっ君って、えええ」
俺に引きずられるようにやってきたルイ君は、下着姿の暇を見た瞬間、腰が抜けたのかすとんと座り込んだ。
「ほ、ほんと無理! なんでいるの! なんで、もーほんと無理」
無理無理と連呼するルイ君に暇も少し焦っている様子だった。
自分に向けられる好意を拒絶したくて笑顔が崩れそうな、そんな様子。
さっきのヤクザの前での格好いいルイくんはどこへやら。
「さっきはありがとーな」
「いえ、いえ、ほんと、いえ!」
帰る―っと踵を返すルイ君を捕まえて、部屋に引き戻す。
「ルイ君、結婚するんでしょ! それまでは遊ぶって決めたじゃんか。遊ぼうよ、今しか出来ないよ」
暇の下着姿なんてAVで見飽きてるだろうし、今さら照れなくても良いのに。
「あー、それならいっか。おいで、ルイ君、一晩のアバンチュールだよー」
「絶対意味分かっていませんよね」
花渡は呆れつつも、ルイ君をベッドに押し倒し、俺とルイ君がベッドに。
暇と花渡が俺たちを見下ろす感じになっていた。
ああ、ほんと俺達って――。
俺達って一体、どこから、いつから、こんな風に間違えたんだろう。
緊張してがっちがちになっているルイくんに、俺は横を向かせてキスした。
ルイ君とキスするのは、仕事の延長だとか、暇を助けてくれたお礼とか、色々考えたけれど、やっぱ一番は刺激的だったから、だと思う。
「んっ。んんっ」
ルイ君の甘くくぐもった声が部屋に漏れる。
それを合図に、花渡が俺の首筋を甘噛みして様子を伺った。
ルイ君の唇から俺の唇が離れ、舌から滴り落ちる糸が切れる。
暇はルイ君の服を脱がしていくと、今にも泣き出しそうなルイ君が暇の顔を、乙女のようなキラキラした目で見上げていた。
「……ルイ君は可愛いね」
「わ、え、AVみたいっ」
「歓喜の仕方が変!」
ドッと笑いだした暇が、そのままおままごとの延長線みたいなキスを降らす。
「舐めちゃおっか」
「ああ、それいいですね。得意です」
花渡は俺の下着を雰囲気も糞もなくずるっと剥ぐと、指を輪っかにして握り、根元をゆらゆら擦りだした。
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