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その日から始まったんだ。②
「……社長は暇さんを100倍まともにして、今流行りのスパダリ気質の巨根です」
「いや、なんで花渡が巨根だって知ってんの」
「俺の100倍とか、まあ間違いじゃないけど酷いし」
花渡の渋い顔を見て、ピンと来た。
これ、もしかして妬いてる?
「あのさ、俺、別に男なら誰でも良いってわけじゃないよ。暇と花渡と、ルイ君とかそんぐらいしか興味ないし」
「十分、範囲が広いと思いますよ」
「今は花渡と暇が居てくれたら十分だって」
嫉妬するくせにこのバイト、ルイ君が止めても続けていいって意味不明なこと言ってたくせに。
大体、俺たちがおかいしだけで、そんな周りにホモばっかとか、簡単にホモに染まったりとか、そんな偶然が起こりまくるわけないし。
「そんな心配なら、俺、土御門御殿に一緒に住むよ」
「俺も住む住む!」
「暇さんはどうでもいいとしても、吾妻さんはご両親が許すはずありません」
「いやー、一応、俺あそこ相続したことになってるし。許さないことはないだろうけど、本音を言えば、うるせーじじいばばあが居なくなったら、花渡たちに渡したいなって思う」
「私にですか?」
「ん。お前と式部ちゃんが育ったばしょでしょ。俺や親戚には大事だとは思わなくても、お前らにとってきっと大切だと思うから」
花渡はハッと顔の表情を動かしたのだけれど、喜怒哀楽が分かりずくどんな反応なのか分からなかった。
そうこうしているうちに、聖から連絡が来た。
『今、会える?』
「ねえ、暇の兄貴ってまだ来ないよね」
「はい。少し仕事が残ってまして急いで頑張っていますが」
「じゃあちょっと抜けるわ。友達が会いたいって」
はっきり言って、聖は今の時代に珍しくバイトもせずに家族とすごすような真面目くんで、俺と大学以外では遊んでくれない。
そんな聖が俺に初めて……頼ってくれてるような素振りを見せてる。
「えー、俺も行く」
「お前が来たら、びっくりするわ。絶対聖は後ろも前も処女だから」
「前は処女じゃなくて童貞って言うし」
「うるさい」
暇の軽口は放っておいて、事務所を飛び出す。
妙な胸騒ぎを感じて、タクシーに飛び乗って聖の元へ向かう。
聖は大学近くのコンビニの前に体育座りで居た。呆然としているような、小さく小さく固まって誰にも見られないようにしているような、普通ではない様子だった。
「聖!」
「……あ、ずま」
怯えたような声の後、俺を見てホッと肩を撫で下ろす。
「良かった。吾妻なら大丈夫だって思ったら、本当に大丈夫だった」
「は? 意味分かんねえし。何? どうし――」
駆けよってみると、聖は笑顔で立ちあがった。
けれどチェックの服のボタンが、何個もとれて前がはだけている。
よくみると、耳や手が赤腫れているようにも見えた。
「どうしたの?」
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