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その日から始まったんだ。③

「えっと、……姉ちゃんの婚約者に襲われちゃって」 「はあ!?」 「なんか、ここで待ってたら前がはだけてるから怪訝そうに見る人もいるし、なんか暴れてる時にピアス外れたのか痛いし……友達の家行こうって思ったのになんか怖くて」 べらべらと喋る聖は、気丈にもへらりとしていた。 けれど、暴れて抵抗したその姿は痛々しい。 「もう姉ちゃんと住んでた家には戻れねえし、でも友達怖いとか最低だし……そう思ったら吾妻に連絡してた。ごめん」 「ごめんじゃねえよ! そんくらい頼っていい。てかもっと頼れよ。うちに来いよ」 聖の隣に座って話していると、仕事用の携帯が鳴った。 「ごめん、出ていいよ」 「……悪い。ちょっと待ってて。――何?」 不機嫌マックスで出ると、電話の向こうは社長ではなく花渡だった。 『もうすぐ社長が見えます。すぐに帰ってきてください』 「待たしといてよ。俺だって散々待たされたし。それより社長に代わって」 隣の聖は、まだ呆然としていて、現実だと認めたく無い様なふわふわしている様子だった。 俺との会話も半分は上の空だった。 『どうされたん?』 「あのさ、ちょっとセクハラしてくるけど羽振りがいいアパレル関係の会社の社長いたじゃん。あれ、接待のバイトするよ、する」 辞めようと思っていたバイトだったけど、こんな時に役に立つとは。 ちょっと尻とか胸を触ってくるが、着せ替え人形ごっこで数十万払ってくれたやつ。 あの人は性的ないやらしい目的ではないので、聖でも安全だ。 着せ替え人形として遊ばせて、パーティーでその会社の服を着て接待するだけ。 『……お隣に恋人たちがおりますけど、そんな発言して大丈夫なんやろか?』  暇と花渡がいても、問題ない。俺が本番しないのしっているし。  それに、聖は大切な友達なんだ。あの二人に怒られても俺は考えを決めるつもりはない。 「そんなこと、アンタ気にする様な人じゃないよな。条件がある。そのバイト二人でするから、売り上げは全部もう一人にあげて」 『……はあ。ですが土御門さんには一カ月の大型バイトがありますやろ』 「そこは俺交渉するし。今から帰る」 一晩で数百万は下らないバイトだ。暇の一晩100万とはわけが違う。 その代り、べたべた触ってくるだろうが。そっちは俺が対応すればいい。 その金額を持てば、聖は数カ月は持つしアパート借りれて、バイトだって見つかるだろうし。 「聖、男恐怖症を克服できる上に、一回のバイトだけで済むから、俺のバイト先でバイトするぞ」 「……吾妻のバイト先って……!」 聖が口元を手で覆うと横を向いた。 「ごめん、無理。吾妻のことを気持ち悪いって思わないんだけど、今は」 「聖、お金欲しいんだろ?」 そりゃあ、俺が暇から今までもらったあのお金を聖に渡すことは簡単だ。 聖を助けたいから渡したい。 けど、それじゃあ吾妻はいつまで経っても、克服できない。 「一部の、頭が性欲でしか出来てない男ばっかじゃない。俺もお前もそうだろ? だから一度だけ俺を信じて、一回だけだから」 「吾妻……」 「大学も通わなきゃ出し住む場所も生活費もいるだろうから、大金が必要だろ? ここに30分後に来てよ。紹介する」 社長の名刺を聖に渡すと、聖は名刺を見ながら覚悟するように頷く。 「わかった。頼む」 「おう、任せろ」 俺が気前よく胸を叩くと、聖は緊張しながらへらりと笑う。 「吾妻は、その……男を好きだから、このバイトしてるんだよな?」 「俺、バイだと思うよ。多分」 「その……男を好きなのに婚約したり、相手の合意なしで押し倒すって」 「普通にダメでしょ。おかしいでしょ。聖は何も悪くないから考えないで。いい?」

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