83 / 132
対極的恋愛①
花渡と暇が一瞬だけ険悪になったあの日。
俺が自分の事に気をとられてしまっているうちに、聖が俺がするはずだった恋人役のバイトを引き受けてしまった。
良かったのか悪かったのか、神様のいたずらってやつなのか。
そのせいで、姉の婚約者に押し倒された聖は、なぜか。
ノンケのくせに、暇よりも巨根で悪い匂いのするアダルト会社社長と同居中。
心配したけど、素直で生意気な聖はあの強面社長と相性がいいみたい。
男性恐怖症になったはずなのに、聖がどんどん幸せオーラに包まれていく。
「何かあれば言えよ。俺が交代してやるから」
「な、夏目さんはそんな悪い人じゃないよ」
聖は幸せそうだ。
恋人でもない相手と、好きでもない相手と、恐怖の対象の相手と同居しているのに。
「吾妻はどうなの?」
「俺? なにが?」
「す、好きな人とか、その」
いねーのかよ!と荒っぽい言葉で言ってくるから笑える。
「……いたら、こんなバイトしてないよ」
「そっか」
「エッチ大好きだから」
「それは聞いてねえじゃん!」
焦る聖をケラケラ笑いつつも、気持ちは氷点下まで下がっていた。
***
ルイ君とは、最後の一カ月、特別にマンションを借りた。
そこの夜景が絶景で、ベッドに寝転んで壁一面の窓から見える夜景を見るのが最近で一番癒される。
ルイ君に膝枕してもらって、ただただぼんやりと見た。
「ルイ君」
「うん?」
「最後にもう一回、4Pしよっか」
太腿をさわさわと撫でながら言うと、その手を払いのけられた。
「いいいいいいいいい! 無理!」
「やっぱ暇のアレ、きつかったの?」
尋ねたら、顔を真っ赤にして頷かれた。
「や、えっと、気持ち良かったんだよ。でも、その……忘れられなくなると怖いから」
寂しそうに言いながら、甘えるように俺の髪を撫でた。
「あっくんは、暇さんとエッチしたことないの?」
「3Pならあるんだけど、基本あいつエッチ嫌いだから。AV男優で巨根の癖に」
「えっと……じゃあ暇さんを受け入れたことないんだ」
「そうだよ。なんか、それはお互い駄目だって分かってるから」
「なんで?」
不思議そうなルイ君は俺の髪を撫でながら首を傾げる。
その仕草は、そこら辺を歩いている女の子達より下手に色っぽかった。
「なんでって、花渡が大切だし」
「暇さんは?」
「特別枠かな」
花渡は恋人になりたいって、思ってたんだ。
「もうよく分かんねえよ」
「暇さんに聞いてみたらいいのに」
ルイ君はにやりと笑う。
「三人は少なくても俺よりは自由なんだし、後悔のない様にね」
「ルイ君は、後悔してるの?」
「もうしてないよ。束の間の時間だったけど、あっくんと出会えたし。後悔はしないよ」
「ルイ君」
「一昨日、婚約者の子と食事に行ったよ。お互い両親付きだったけど、おっとりした小さな女性だった。彼女に迷惑や恥をかかせたくないし」
ともだちにシェアしよう!