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対極的恋愛②
「ルイ君……」
「結婚したら、今持ってる暇さんのゲイビ、あっくんにあげるね」
「いらねー!」
すこしだけしんみりしてしまったのに、空気を読んだのかそんな事を言われて爆笑してしまった。
それでもルイ君はあと数日で本当に俺の世界から消えてしまう。
影も形も残さない。
「……女で勃つの?」
「頑張るよ。逃げられないし。それに相手の方は嫌いではないよ。きっと好きになれると思う」
嫌いではないけど、好きでもないんだろ。
そう思っていても、固く決心しているルイ君には言えなかった。
ルイ君は、きっと努力してその子の隣に居つづけるんだろうな。
「ただ同性を好きなだけで、どうしてルイ君だけそんなに苦しむんだよ」
「ぷぷ。そう言ってくれるのって、この先一生、あっ君たちだけだよ。俺の生きる先には、そんな優しい事を言ってくれる人はいないもんね」
寂しさで潰されてしまわないかと不安になり、手を伸ばした。
すると少し温かいルイ君の手がからみつく。
起き上がってキスしても抵抗はしない。初めのころみたいに初々しいキスではなく、舌を絡めてきた。
残り数日だけの偽装デート。
『メシ行こう』
ルイ君とのデート帰り、暇からそんなメールが来た。
ガタンガタンと揺れる電車の中、その文字だけがはっきり見えて何故か、なんでだろうか、切ない気持ちがこみ上げてきた。
『明日、いいよ。魚食べたい』
『俺、めっちゃ面白い魚屋知ってる。じゃあ迎え行くわ。大学? 家の駅?』
『土御門御殿。今日は泊まる。来ても良いよ』
そこで暇からの神足返信が途絶えた。
俺たち、三人で付き合っていくんじゃなかったのかよ。
三人でベッドに入って、それで埋められない部分をお互い埋めていこうって。
そう思ってたんじゃないのかよ。
「吾妻さん、遅かったですね」
電車を降りてすぐ、見える場所に停車していた車から花渡が出てくる。
田舎の駅で、すでに駅員さえ居らずゴミ箱みたいな券の回収箱が置かれているだけ。
その先で、田舎に馴染んでいる浴衣姿の花渡が立っている。
無表情ながら、俺の顔を見た途端テンションが上がったのは気付いた。
そんな小さな変化も俺には分かってきた。
「今日は、式部が遠慮して会社に泊まってるんでご飯は私が作りました」
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