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対極的恋愛③
「まじで? 花渡の料理とかすげーんだけど」
車のドアを開けてくれ、スマートにエスコートしてくれる花渡は、最近は俺への愛情表現は隠さないようになっていた。
「何も作れませんよ。野菜を切って昆布を沈めたお湯に入れるとか得意ですが」
「それって鍋じゃん。今日、鍋?」
「着いてからお伝えします」
と言いつつ、車に乗り込むと無言になった。
会話は穏やかだったのに、花渡だって無表情だけどちゃんと嬉しそうだったのに、俺だけがしこりを残してぐたぐたしてる。
花渡が大切なのに、暇とも離れたくないのは、やはり世間一般ではおかしいんだろうけどさ。
エッチしてるわけじゃないし、恋人ってわけじゃないし。
答えが出ない俺が乗った車に、ぽつぽつと雨が降ってきた。
「なあ、花渡」
「はい。なんですか?」
「俺は、暇も大切なんだけどだめ?」
運転中の横顔も、綺麗だなあって思う。
綺麗で自分の考えを見せてくれなくて、全て欲しいと願ってしまうような男。
「駄目ではないですよ。それは吾妻さんの自由ですし。私も気になっていますし」
深いため息の後、すぐに信号になり花渡は俺の方を向く。
そしてちょっと顔を傾けて唇を寄せる。
「ほしいと思うのは吾妻さんだけです、でも暇さんを一人にできない。それって同情じゃないでしょうか。三人でするのは嫌ではないです。それどころか、なんていうんでしょうね。悪い事をしたことがなかったので、ゾクゾクします。でも」
暇さんをこのままでは傷つけていくのではないかと思うのです。
花渡はそう落ちついた声で言うと、首を振った。
「それを暇さんに気付かせることも、傷つけてしまいそうで、……面倒です」
「面倒?」
「ただ私たちは、三人で幸せになりたいだけなのに、と。面倒です」
花渡の本音に、安心したと同時に解決策が見つからず少しだけ心が痛くなった。
***
Side:暇
「男優さんの起ち待ちです」
スタッフの声に、ぞろぞろと他のスタッフが部屋から出ていく。
残されたのは、相手役と俺だけ。
「うわー、まじ申し訳ない。歳かな。いつもならめっちゃ早漏なんだけど」
「いいっすよ、気にしないで。暇さんとできるだけでラッキーですし」
相手役の子は、今売り出し中の男の娘のきらりちゃんとか言う子で、はっきり言って……女の子みたいな顔は萎えるというか、起たない。
平べったい胸とか、ちんこ見ながら頑張ってるんだけど、一向に回復しない。
「ねー、暇さんってアフター付き合ってくれないってほんと?」
「アフターってホストみたい。打ち上げなら終電までいるでしょ」
あー、声は演技中じゃないと低いのか。
目隠しして声だけでイかせるとかどうだろ。
「その後。他の男優とかスタッフともっと仲良くなりたいって思わないの?」
駄目だ。媚びる目が駄目だ。やー、凌辱モノとか無理だし愛のあるストーリーしか無理だけどさ、女みたいな見た目で媚びは止めてくれ。
「んー。今、この瞬間が一番仲良しな時間だからアフター無理かな。てかさ、俺目隠ししてもいい?」
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