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永遠ではないらしい③
押し倒しても嫌な顔はしない。俺を引き寄せて髪を掴むと、指先でくるくる弄って焦らしてくる始末。
「大学に送ったあと、私も仕事がありますので」
「でも、心がぽっかり穴が空いちゃった。これは花渡にしか修繕できない」
押し倒して心臓の音を聞く。うーん。若干早くなったかもしれない。
が、クールな顔で携帯を取り出すと電話し出した。
俺、結構積極的に言ったんですけど。
「社長、おはようございます。今日の予定ですが――」
俺がこんなに甘えているのに、仕事優先かよ。
乳首、くりくりしてやる。シャツの上から指先でいじると、いとも簡単に振り払われた。
「全部式部に聞いてください。午後から出勤いたします」
そう言いきると、相手の返事も待たずに電話を切って電源を落した。
「まあ、たまにはいいでしょう。たまには、ですが」
「へへ。花渡、だーいすき。やっべ癒されるー」
首に抱きついたが、俺ごと起き上がるとカーボックスの中に携帯を投げ入れていた。
これは社長が連絡してきても頑固たる意思で無視するつもりだろう。
「で、どうしましょう。セックスですか?」
「うーん」
こんなに俺の我儘を聞いてくれる花渡と、ただ身体を重ねるのは違うような気がした。
「海行きたい」
「海……」
「だめ?」
首を傾げて甘えてみると、花渡は顎に手を置いて少し考えてからうなずく。
「行きましょう。よく考えたら、海に行くと言う目的の為に海に行ったことありません」
「どーゆう意味?」
「海を見たいから海を見に行ったことが無いんです」
「……まじで道楽って言葉に縁が無い人生だよね」
花渡は、一体どれぐらい自分のために時間を使ったことがあるんだろうか。
俺に酷いことしたときでさえ、俺のじいちゃんのことで怒ってた。
……ルイ君みたいだ。あの人もこの先、自分のために時間を使うことはないんだろうし。
「あのさ、花渡。海を見たいから海に行くわけじゃないよ」
「と、申しますと?」
本気で分からなかったのか首を傾げる。その姿さえ、不器用で胸が痛んだ。
「恋人と一緒だから海に行きたいってこと」
「……そう、ですか」
俺の言葉を、舌で転がす様に考え込んだ後少し照れたように顎を掻く。
「それは、……喜んでいいことですね」
「そうそう。喜ぼう」
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