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永遠ではないらしい⑤
「でもきっと、すぐに分からなくなりますよ」
「なんで?」
「君が私の傍にいれくれるなら、常識なんてどうでもいいんです」
抱き締められて、囚われて、爆発しそうな甘い感情の中、離したくないと指先に力を込める。
「花渡って、こんなに甘くなる人だったんだな」
「……そうですね。自分でも驚きました」
顔をあげ、太陽を反射し輝く海を見ながら目を細める。
「ただ、貴方に会えないままだったら私はきっと海に来たいと思うことは一生なかったでしょう」
「おおお、まじで。ちょっと照れる……」
「貴方こそ、私の前でそんな可愛い表情をしてくれるとは思いませんでしたね。人をからかって楽しいみたいな、性悪なガキでしたし」
そんな事いうかななあ。
まあそうなんだけど。
俺も真実の愛に目覚めちゃった、みたいな。
手をつないで、二人で海に足を付けた。
氷に足を乗せたみたいに、キンキンと冷えて顔を見合わせて笑う。
「なあ、この足、どうする? タオルある?」
「ないですね。まあ濡れたままで大丈夫ですよ。私の車なので」
吾妻さんは私が抱き抱えますし、と花渡は付けくわえた。
まあ、それでいいなら俺も良いんだけど。
でも、後で拗ねる奴がいるんじゃないの?
「タオルを持ってきそうなやつがいるけど、呼ぶ?」
俺に言葉にやっと理解したのか、花渡は笑う。
あとで自分だけ仲間はずれにされたと拗ねていじけて、油断して浚われてしまいそうな危うい人。
「もう少ししたら呼びましょうか。終わって帰る頃に」
「あはは。ひでー」
けれど、俺は二人がいるから寂しくない。
ルイ君が居なくなった今、もうあのバイトも辞めようと誓う。
恋人でもない。でもただの客で終わりたくなかった。
そんなわがままは、恋人の前で言えるはずもない。
幸せなんだから、もう終わろう。
花渡と暇がいれば、もう俺は満たされているのだから。
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